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物乞いになった元金メダリスト

なでしこジャパンの快挙と中国の五輪代表養成システム

2011年7月20日(水)

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 先日、新宿の小さな中華料理店で食事をしていた時である。客は私たちしかおらず、暇なようで厨房で中国人スタッフたちが中国語で雑談しているのが聞こえた。「日本女子は強いなあ…」。すぐにそれが、ドイツで開催していた女子サッカーのワールドカップで躍進する「なでしこジャパン」の話題であることが分かった。ちょうど強豪スウェーデンを下して決勝進出を決めた日の翌々日のことだった。

 ひとしきり女子サッカーの強さについて何やら話しているようだったが、ふと耳に入ったのは「女子サッカーの賞金(勝ち星ごとに払われるボーナス)は男子よりずっと低い」という言葉だった。

 「なでしこジャパン」は7月18日早朝の決勝戦で、白い巨人族のような米国チームに2度先制点を奪われながら脅威の粘りで追いつき、最後はPKで勝つというスポーツマンガばりのドラマで世界一の栄冠を勝ち取った。しかし、それほどの強さを誇りながらも、女子サッカーはマイナースポーツであり、多くの選手が実はレジ打ちのようなバイトをしながら選手生活を支えている、といった記事を読んだことがある。

 日本のような「平等主義」の社会でさえ、年俸何億とかいうメジャースポーツのスター選手の下には、生活と選手活動の両立さえ大変な状況で、厳しい勝負の世界に挑んでいる選手たちがいるのだ、と改めて気付かされた。

 そういう話をふと思い出したのは、ちょうど中国でスポーツ選手の生活苦や選手養成のシステムの問題が議論を呼んでいるからだ。もっとも、こちらの話題は現役選手の話題ではなく、引退選手の話だから、直接関連はなく比較するような話でもない。

 話の発端は、金メダリストの元体操選手が北京の地下鉄口で物乞いをしていた、という記事だ。

引退し「売芸物乞い」、そして窃盗、服役

 7月中旬、インターネットの微博(中国式ツイッター)で、2001年ユニバーシアード北京大会で団体競技とつり輪で金メダルを獲った体操選手、張尚武さん(27)と思われる人物が地下鉄・王府井駅に通じる地下道や東方新天地前といった繁華街で倒立やトーマス旋回などを芸として見せて、投げ銭を得る一種の物乞い「売芸」をやっているというつぶやきが流れ、瞬く間にインターネットで話題になった。その情報を基に各メディアが取材を行ったところ、確かにそれは張さん本人だった。

 張さんはユニバ北京大会で金メダルを2枚取り、当時で賞金4万元を獲得するなど、学生体操界の希望の星と呼ばれたのもつかの間、2002年に練習中に左足の腱を切断する事故に遭い、2003年のアテネ五輪の代表選手に選ばれなかった。その後、足の傷の治療がうまくいかず、2005年に引退を余儀なくされた。

 2007年には複数の体育学校でパソコンなど5万元相当を盗んだ容疑で逮捕され、彼の名は再びメディアに登場した。この時はスポーツ選手のモラルの低さなどが話題になったが、彼が懲役3年10カ月の刑に服している間にそれも忘れ去られていた。そして今回の「売芸」騒動で、3度、彼はメディアに取り上げられたのである。

 張さんがメディアに語ったところによると、4月に出所し、河北省石家庄市や天津市、北京市などで「売芸物乞い」をしていたという。5歳から体操学校に入り、12歳にはナショナルチーム入りした張さんは、いわゆる基礎学力も、そのほかの技術も持たなかった。引退時に受け取った退職金は1万元だった

 練習中に怪我を負っても、コーチはしばらく休んでいたら治る、として適切な治療やリハビリを行ってくれなかったとも言う。鍛えられた肉体はあるが、身長はわずか151センチ、しかも長く立っていると痛む足の傷の後遺症を抱えていては、体を使う仕事もなかなか見つからない。

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「物乞いになった元金メダリスト」の著者

福島 香織

福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト

大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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