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高速鉄道事故はなぜ起こったか

事故車両をつぶし、穴に埋めた思考回路と政治的背景

2011年8月3日(水)

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 中国で7月23日発生した高速鉄道「和諧号」の追突事故は死者40人以上、負傷者200人の大惨事となった。亡くなった方の冥福と怪我で苦しむ方のできるだけ早い回復を祈ってやまない。

 だが、考えてみれば、中国で数十人の死者が出る事故は決して珍しいことではない。高速鉄道事故発生前日の7月22日未明、河南省信陽市の京珠高速道路で発生した長距離寝台バスの炎上事故では41人が死亡した。原因は乗客の持ち込んだ易燃性化学製品の発火だ。炭鉱など1回に死傷数十人を出す労災事故は中国では今やニュースとしてさほど話題性が持続しないほどしばしば発生する。

 高速鉄道事故の方が社会的に大ニュースとなったのは、まず「命の重さ」の差があるだろう。高い料金を払い時間を惜しんで高速鉄道に乗車する乗客は中産階級以上、あるいは外国人であり、夜行寝台バスで移動するのは庶民である。おそらく賠償金にして数倍の差があるはずだ。中国では社会的地域、政治的地位、資産の多寡によって命の重さは大きく違う。

 しかし政府がこれほど狼狽し、市民がこれほど怒り、国際社会がこれほど注目するのは「命の重さ」の差ばかりでない。中国の高速鉄道が国家の威信をかけたプロジェクトであり、その誇るべき技術の信頼が失墜しそうなことが狼狽の原因である。その技術への信頼失墜を防ごうと取り繕おうとした結果、乗客の救援が後回しにしたことが、遺族をはじめ市民の怒りを招いている。

 中国が事故に関して報道統制があまり効かなかったことや、遺族の怒りの抗議活動を黙認している背景にはインターネットの発達などいろいろ要素があるが、これはまた別のテーマだろう。今回、私が改めて考えたいのは中国が慌てふためき守ろうとしている「技術への信頼」とは何か、ということである。

「日本の新幹線技術しかない」

 今回事故にあった車両のひとつCRH2は、日本の誇る東北新幹線「はやて」の技術が導入されている。2001年に北京-上海高速鉄道計画が発表されて以来、レール式かリニア式か、レール式だとしたら、どこの国の技術を導入するかは私の取材テーマの1つだった。

 中国鉄道部内では「日本の新幹線技術しかない」という声が圧倒的に強く、当時の東北新幹線技術関連の日本企業の北京駐在関係者たちは「最終的には日本の技術に決まるだろう」と見通しを語っていた。もし「中国高速鉄道、日本が受注決定」という特ダネを打てれば、これは記者としては表彰ものだ。

 だが、小泉純一郎政権時代に政治化された「靖国神社参拝問題」のせいで、中国国内に反日感情が広まり、ネット上で日本の新幹線導入反対の署名運動が広がった。そのため、北京五輪前に完成を目標とした上海・北京間の高速鉄道プロジェクトは暗礁に乗り上げてしまった。

 その一方で2004年に在来線高速化計画に使う車両を国際入札するとして、結果として日独カナダからそれぞれ車両を購入し、それを基に独自で技術を研究開発。その「独自開発技術」で作られたのが6月30日に開通した北京-上海高速鉄道である。

「責任を負わない」と中国側から念書

 「中国に日本の新幹線導入」は当時の日本政府と関連企業にとっては日中友好のシンボル、または中国の鉄道市場開拓につながるものとの期待が寄せられていた。だが、日本側はブラックボックスなしの東北新幹線技術を中国に提供しただけで、一部の保守系評論家からは「中国側への技術の安売り」と批判する声が出た。

 信号・制御など地上設備はフランスの技術をベースにしたもので、その上「はやて車両」の本来の設計範囲を超える速度で運営されるということになった。日本側では「こういう不完全な形での導入によって事故が起こった場合の責任を負わない」と中国側から念書を取ったほどである。

 だから、高速鉄道が中国の独自開発であるとしても、それはその通りで、逆に事故やトラブルがあっても日本関連企業側が責任を感じるところは1つもない。

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「高速鉄道事故はなぜ起こったか」の著者

福島 香織

福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト

大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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