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ストレステストの結果は「安全性に問題あり」ではなかった

「リスク分析を技術者だけに任せてはいけない」と判断したドイツ人(上)

2011年8月5日(金)

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 ドイツは、福島第一原子力発電所の炉心溶融事故からわずか4カ月で、2022年末までに原子力発電所を完全に廃止することを盛り込んだ法案を連邦議会と参議院で通過させた。主要工業国の中で、日本の原発事故をきっかけに原発廃止の締切日を確定したのは、ドイツだけである。この国は、どのようなリスク判断に基づいて原子炉全廃に踏み切ったのか。

メルケル首相の「敗北宣言」

 その背景を理解する上でカギとなるのが、アンゲラ・メルケル首相が2011年6月9日に連邦議会で行った演説である。メルケル首相は元々物理学者であり、原子力擁護派だった。

 例えばドイツの原子力関連産業の団体「ドイツ原子力フォーラム」が2009年に創立50周年を祝う式典を開いた際、メルケル首相は主賓として出席。祝辞の中で「ドイツの未来を保証するためには、原子力エネルギーは必要だ」と述べ、原子力発電を重視する姿勢をはっきり打ち出していた。実際、2010年には産業界や電力業界の意向を尊重して、原子炉の稼動年数を平均12年間延長している。しかし彼女は福島事故をきっかけに、原子力批判派に「転向」した。

 メルケル氏の6月9日の演説には、彼女の福島事故や原子力のリスクに対する見方と、物理学者らしい分析的な思考スタイルがにじみ出ている。少し長くなるが、ドイツ人の今回の事故に対する考え方を象徴する文章でもあるので、一部を引用したい。

「……(前略)福島事故は、全世界にとって強烈な一撃でした。この事故は私個人にとっても、強い衝撃を与えました。大災害に襲われた福島第一原発で、人々が事態がさらに悪化するのを防ぐために、海水を注入して原子炉を冷却しようとしていると聞いて、私は“日本ほど技術水準が高い国も、原子力のリスクを安全に制御することはできない”ということを理解しました。

 新しい知見を得たら、必要な対応を行なうために新しい評価を行なわなくてはなりません。私は、次のような新しいリスク評価を行ないました。原子力の残余のリスク(Restrisiko 下記注参照)は、人間に推定できる限り絶対に起こらないと確信を持てる場合のみ、受け入れることができます。

 しかしその残余リスクが実際に原子炉事故につながった場合、被害は空間的・時間的に甚大かつ広範囲に及び、他の全てのエネルギー源のリスクを大幅に上回ります。私は福島事故の前には、原子力の残余のリスクを受け入れていました。高い安全水準を持ったハイテク国家では、残余のリスクが現実の事故につながることはないと確信していたからです。しかし、今やその事故が現実に起こってしまいました。

 確かに、日本で起きたような大地震や巨大津波は、ドイツでは絶対に起こらないでしょう。しかしそのことは、問題の核心ではありません。福島事故が我々に突きつけている最も重要な問題は、リスクの想定と、事故の確率分析をどの程度信頼できるのかという点です。なぜならば、これらの分析は、我々政治家がドイツにとってどのエネルギー源が安全で、価格が高すぎず、環境に対する悪影響が少ないかを判断するための基礎となるからです。

 私があえて強調したいことがあります。私は去年秋に発表した長期エネルギー戦略の中で、原子炉の稼動年数を延長させました。しかし私は今日、この連邦議会の議場ではっきりと申し上げます。福島事故は原子力についての私の態度を変えたのです。(後略)」

(筆者注)残余のリスクとは、一定の被害想定に基づいて、様々な安全措置、防護措置を講じても完全になくすことができないリスク。例えば想定された震度を上回る地震が起きて、想定されていない被害が発生するリスクが残余のリスクである。
 日本の原子力安全委員会は、2006年9月19日に決定した「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の中で、地震に関する「残余のリスク」を次のように定義している。「策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことにより、施設に重大な損傷事象が発生すること、施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること、あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被曝による災害を及ぼすことのリスク」

コメント9件コメント/レビュー

ストレステストというよりリスク分析というべきものでしょうが、国内のものでは同様な内容をまだ知らないので興味深く読みました。”洪水を1万年に1回のレベルのもの”と設定したこと、原発のタイプ別に分析していることなど注目しました。しかし、メリケル首相の「高い安全水準を持ったハイテク国家では、”残余のリスク”が現実の事故につながることはないと確信・・」の言が理解できません。”残余のリスク”を原子力安全委員会の定義から考えると余計そうです。理屈からはあり得ない仮説です。ゼロに近いリスクをゼロとした安全神話と同じ考えをメリケル首相も持っていたのでしょうか?とするとフクシマを知って愕然としたと言えるかもしれません。(2011/08/08)

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「ストレステストの結果は「安全性に問題あり」ではなかった」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ストレステストというよりリスク分析というべきものでしょうが、国内のものでは同様な内容をまだ知らないので興味深く読みました。”洪水を1万年に1回のレベルのもの”と設定したこと、原発のタイプ別に分析していることなど注目しました。しかし、メリケル首相の「高い安全水準を持ったハイテク国家では、”残余のリスク”が現実の事故につながることはないと確信・・」の言が理解できません。”残余のリスク”を原子力安全委員会の定義から考えると余計そうです。理屈からはあり得ない仮説です。ゼロに近いリスクをゼロとした安全神話と同じ考えをメリケル首相も持っていたのでしょうか?とするとフクシマを知って愕然としたと言えるかもしれません。(2011/08/08)

メルケルの豹変は地元の州選挙で緑の党が第1党になったからと思ってました。どっちが本当なのかしら?しかしまあいい加減なストレステストですね。「ウンターベーザーは低度の耐久性も満たさず、不合格」なのに「航空機の墜落を除けば、比較的高い耐久性を持っている」のだそうです。しかも航空機の墜落は原発にとって最初から想定の事象と思っていましたのに駄目とは。それだけ正直なのかも知れませんが、そんなレベルの原発を持つ連中に批判される日本も情けない。まあその差は1千年ぶりの津波に襲われたか、まだ航空機がぶつかっていないかだけでしかありませんが。(2011/08/06)

事実を伝える点ではすぐれた記事である。メルケルという政治家への敬意は増大した。日本にも応用物理学を専攻した政治家がいたと記憶している。彼がどんな論理に基づいて決断したのか、説明を聞い見たい。しかし、私はメルケルの政治的判断には懐疑的あるいは否定的だ。その論拠は、エネルギー政策の体系とそれによって提供される健康で文化的なよりよい生活への便益とリスクのトレードオフについて議論していない点である。なぜ、「被害は空間的・時間的に甚大かつ広範囲に及び、他の全てのエネルギー源のリスクを大幅に上回ります。」といえたのか。風力では気候変動へのリスク(南極やグリーンランドの氷床が解けるなど)。火力では政治的要因により石油・天然ガスが1年間程度供給停止される。などの「想定外」のリスクについて影響を比較検討したのか。我々の「健康で文化的よりよい生活」に有益なのはどのエネルギーで、その便益とリスクのトレードオフを評価し、説明し、理解し、覚悟して初めて決定できる問題ではないか。ドイツ国民の世論のベースを私は知らない。ドイツ人にはこの議論は必要ないほど自明なのかもしれない。ならば日本ではどうか、そこはまた別の筆者が回答してくれることを望む。(2011/08/05)

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三品 和広 神戸大学教授