ブータンはGDP(国内総生産)ではなくGNH(国民総幸福量)の最大化をビジョンに掲げる国です。
経済的に豊かになるばかりが幸せではない。国は経済発展だけではなく総合的に国民の幸せを上げていくことを目指すべきだ――。ブータンは、そんな信念の下、政治をしている国です。
この話だけを聞くと、きっと多くの方は、「ブータンの人は、貧しくてもつつましく幸せに生きている」、そんな、清貧と言えるブータン人の暮らしを想像するのではないでしょうか。
私も、そうでした。ブータンに来る前、私はブータンについてこんなことを聞いていました。
「ブータンには信号が1つしかない。それも、首都にある、手旗信号だ」
そんなことから、私は、のどかで、車もほとんど通らない田舎の風景を想像していました。
タイよりずっといい車が走ってる
約1年前、ブータンに来て首都に入った時、その光景が自分の想像していたものと大きく異なり驚きました。確かに、信号は町の中心にある手旗信号1つなのですが、車はたくさん走っています。それも、ぼろぼろの中古の小型車などではなく、ピカピカの車が、たくさん。
最も多く見られるのはスズキですが、韓国・ヒュンダイのサンタフェと、トヨタ自動車のプラドも多く走っています。ランドクルーザーやハイラックスも見ます。どれも、数百万円はする車です。しかも皆ピカピカで、おそらく新車で購入し、その後もよく手入れしているのだろうということが分かります。車だけ見ると、まるで先進国です。
先日、日本から研究の仕事でいらした大学の先生が、こんなことを言われました。
「いやー、びっくりしました。私もだいぶアジアの国を訪れていますが、走っている車のレベルが、ブータンはどこよりも高い気がします。アジアの中でも比較的発展しているタイでも、町中では中古の小型車が目立ったのに…。ブータンの方が、ずっといい車が走っていますね」
本当に、その通りだと思います。
走っている車だけ見ると先進国と大して変わらない経済水準に見えるブータンですが、この国の人々はそんなにお金を持っているのでしょうか。
ブータンの人のお給料は、だいたい3層に分かれます。
2. ホワイトカラーや公務員など:月収2万~4万円程度
3.一部のお金持ち(大手旅行会社、建設会社経営者など):月収数十万円
そう、決して収入が多いわけではありません。ブータンの人のお給料は、職業によって格差がありますが、総じてだいたい日本の10分の1、という感覚だと思います。
でも、首都ティンプーで人の暮らしぶりを見ていると、とてもそうは見えません。高そうな車がたくさん走っていますし、友人の家に遊びに行くと大きな薄型テレビがあったりします。
もちろん、これが国中で起こっているというわけではありません。ブータンでは都市部への人口集中が起こっており、都市と農村の格差は広がりつつあります。ブータンの地方では、まだ電気がきていない村もありますし、住民の多くは農業で生計を立てており、伝統建築の家と畑が広がります。初めて地方に出張した時には「ラストサムライみたいな風景だなぁ」と思ったのを覚えています。
一方、首都ティンプーでは、日本で働いていても高価だと感じられる車がたくさん走っている。お給料は、日本の10分の1であるにもかかわらず。それは、少し不思議な光景です。
iPad買おうと思うのだけど、どう思う?
車だけではありません。ブータンの首都ティンプーで暮らしていると、「本当にここは途上国なのだろうか」と思わされることがよくあります。
例えばiPhone。実はティンプーでiPhoneはそんなに珍しくありません。旅行会社の経営者など、ある程度お金を持っている人はもちろんですが、給料が2万円代の20代の公務員などもiPhoneを持っています。それ以外にも、ブランドものの服、化粧品など、日本で暮らしていても「なかなか値が張るなぁ」と思う物を、ブータンの人は持っていたりします。
ブータンの人たちはどのような気持ちで、こうした高価な買い物をしているのでしょうか。
ブータンを注目すればブータンが良いようにしかも旧い情報の先入観のまま評価されている。良い面悪い面が両方あるのだからそこを適切に評価する方が望ましいとおもいます。そういった意味でこの記事は非常に興味深いです。(2011/08/20)