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社会学者や哲学者が原子力に終止符を打った

「原子力リスクの分析を技術者だけに任せてはいけない」と判断したドイツ人 (中)

2011年9月2日(金)

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 メルケル政権は、「2022年末までに原子力発電所を全廃する」と決断するにあたって、次の2つの委員会に意見を求めた。

・原子炉安全委員会(RSK)

・安全なエネルギー供給に関する倫理委員会

 前回の当コラムでは、RSKが 鑑定書の中に「ドイツの原発には安全性に問題があるので、直ちに止めるべきだ」とは一行も書かなかったことをお伝えした。むしろRSKは「ドイツの原発は、航空機の墜落を除けば、比較的高い耐久性を持っている」と主張し、「福島の事故で得られた知見に照らすと、ドイツの原発では停電と洪水について、福島第一原発よりも高い安全措置が講じられている」と評価したのである。

 日本の読者の皆さんの中には、「原子力のプロである技術者が原発の停止を勧告していないのに、なぜドイツ政府は脱原発に踏み切ったのだろう」と不思議に思われる方が多いかもしれない。

 ドイツでも、RSKが、原発の危険性を指摘することを予想していた人は、この鑑定書を読んで失望した。緑の党や環境団体は、RSKの鑑定書の内容を「甘すぎる」と批判した。原子力に批判的なレットゲン環境大臣(キリスト教民主同盟・CDU)も、記者会見で「あわてて原発を止める必要がないことがわかったが、航空機の墜落についての耐久性は十分ではないので、政府の脱原子力の方針には 変わりはない」と歯切れの悪い発言をしていた。

メルケル首相は倫理委員会を重視

 RSKが、航空機の墜落を除けば、原発の安全性について太鼓判を押したにもかかわらず、メルケル首相は脱原子力に踏み切った。彼女はもう一つの諮問委員会である、「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」の提言書の方を重視したのである。

 日本では原子炉のストレステストは予定されているが、倫理委員会の設置は予定されていない。「なぜ原子力エネルギーをめぐる議論に“倫理”がからんでくるのか」と不思議に思われる方もいるだろう。そこで今回と次回の当コラムでは、この倫理委員会の提言書について詳しくお伝えしたい。

 ドイツで以前から原子炉の安全問題を担当していたRSKとは異なり、倫理委員会は福島事故後にメルケル首相によって急遽招集された。

 倫理委員会の委員長は、2人。その内の1人、クラウス・テップファー元連邦環境大臣はCDUの党員で、国連環境計画UNEPの事務局長を務めたこともある、ドイツで環境問題に最も精通した政治家の1人だ。彼は提言書の作成に取りかかる前に「“原発を廃止する”と宣言するだけでは十分ではない。我々は、原発の廃止が電力供給のリスクをどの程度高めるのか、先進国ドイツの経済的な安定性を確保できるのかについても、分析しなくてはならない」と語っていたが、シュレーダー政権が2002年に導入した最初の脱原子力政策については前向きに評価していた。もう1人の委員長は、ドイツ研究者連盟のマティアス・クライナー会長。ドルトムント技術大学の教授で、金属工学が専門である。その他の委員15名は、次の通り。

ウルリヒ・ベック 元ミュンヘン大学の社会学教授、リスク社会学が専門
クラウス・フォン・ドナニュイ
(SPD)
元連邦教育大臣
ウルリヒ・フィッシャー バーデン地方・プロテスタント教会監督(司教に相当)
アロイス・グリュック(CSU) ドイツカトリック中央委員会の委員長
イェルグ・ハッカー ドイツ自然科学アカデミー会長
ユルゲン・ハンブレヒト 化学メーカーBASF社長
フォルカー・ハウフ(SPD) 元連邦科学技術大臣
ヴァルター・ヒルヒェ(FDP) ドイツ・ユネスコ委員会の委員長
ラインハルト・ヒュットル ドイツ地学研究センター所長・技術科学アカデミー会長
ヴァイマ・リュッベ 哲学者、ドイツ倫理審議会・会員
ラインハルト・マルクス ミュンヘン・フライジング教会の大司教
ルチア・ライシュ 経済学者、コペンハーゲン・ビジネス・スクール教授、持続可能な成長に関する審議会の委員
オルトヴィン・レン 社会学者、リスク研究家、バーデン・ヴュルテンベルク州の持続可能性に関する審議会の会長
ミランダ・シュレーズ 米国の政治学者、ベルリン大学の環境政策研究センター所長
ミヒャエル・ヴァシリアディス
(SPD)
鉱業、化学、エネルギー業界の産業別労働組合の議長

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「社会学者や哲学者が原子力に終止符を打った」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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