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全身麻酔の患者を放置して逃げた医師

「手術中の火災」は不可抗力か、問われる医師の徳

2011年9月2日(金)

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 2011年8月24日の午後10時頃、上海市宝山区にある“上海交通大学医学院第三人民医院(旧名:宝鋼医院)”<以下「宝鋼医院」>の手術室で火災が発生し、折悪しく隣の手術室で全身麻酔による脚の切断手術を受けていた男性患者が窒息死した。患者は全身麻酔のため人工呼吸器を使っていたが、手術で使用していた電動手術台は重くて移動させることができず、人口呼吸器の気管チューブを抜けば患者の生命に危険が及ぶことから、火災の煙が充満する中、医師たちが患者を放置したまま手術室から逃げ出したことで患者は窒息死したのだった。

 死亡したのは上海市宝山区羅店鎮に住む“朱”という姓の男性で49歳であり、嫁に行った娘に孫が生まれて4カ月前に「おじいちゃん」となったばかりだった。死亡当日の午後、朱さんは自宅のある羅店鎮で土木工事のトラックにはねられて脚に重傷を負い、宝鋼医院に搬送された。そして、脚の切断手術が必要と診断されたのだった。

 宝鋼医院は1980年に“上海第二医科大学宝鋼医院”として設立されたが、2005年に現在の“上海交通大学医学院第三人民医院”に改名された。ベッド数502床、35の診療科目を持ち、職員980人を有する“三級乙等”の総合医院である。<注1>

<注1>中国の総合病院はその規模により一~三級に分類され、総合的な評点により甲、乙、丙の3階級に区分けされている。“三級甲等”が最上であり、“三級乙等”がこれに続く。

濃い煙が充満して手術室に戻れず

 さて、朱さんの手術は外科病棟3階の1号手術室で行われた。1号手術室に運ばれて全身麻酔を施された朱さんには人工呼吸装置が装着され、手術は午後8時過ぎに始まった。手術を担当したのは総勢6人からなる医療チームで、その内訳は医師、看護師、麻酔医が各2人であった。手術は順調に進み、9時45分頃には縫合の段階に入り、そろそろ手術終了かと思われた10時頃、看護師の1人が隣の2号手術室から流れ込む煙で火災を発見した。これに驚いた看護師は2号手術室に行って消火器で火を消そうと試みたが、かえって大量の煙を発生させてしまう結果となり、近くの事務室に駆けこんで119番に電話を入れて火災の発生を知らせた。

 一方、1号手術室は火災発生から間もなくして停電となり、薄暗い非常用照明だけとなった。麻酔医2人と看護師1人が懐中電灯と消火器を捜しに手術室を出たが、濃い煙が充満していて1号手術室に戻れなかった。残されたのは医師2人。手術は終わっていないが継続することもできない。2号手術室からは煙がますます流れ込んでくる、このままいれば自分たちも生命を失う危険がある。医師2人は対応に苦慮したが、もはやどうすることもできないと判断した2人は朱さんを残して手術室を脱出した。2人はその直後に出会った消防士に朱さんを1号手術室から運び出すのに協力して欲しいと依頼したが、消防士に1号手術室への立ち入りは危険だとして阻止された。

 火災が鎮火した後に朱さんは遺体となって発見された。外観は火傷の痕跡もなく、死因は窒息によるものと判定された。事件当時、宝鋼医院には朱さんに付き添っていた妻と娘が手術室の外で手術の終わるのを待っていたのだが、その結果が火災による朱さんの窒息死であり、思いもよらぬ事態に残された家族の衝撃は大きいものがあった。

コメント29件コメント/レビュー

転倒老人の話に関しては常識的と思われるトーンで記述していた筆者が、病院の話では冷静な判断力を失って簡単に“老人の側”の味方になってしまう、実にフィーリングにまかせた感情的記述をしてしまう、思考停止して安易な現場叩きに走ってしまう。 この心理的なメカニズムは、日本の医療崩壊のメカニズムの解明と関連して大変興味深いです。 クレーマー的患者は比較的インテリジェンスの高い人に多いのです(学校や大学の先生、マスコミ関係者、医療関係者など。おもしろいことにビジネスマンは比較的合理的理性的判断をしてくれることが多い。やはり現場をみてきているからでしょうか。先生とかマスコミとか、日ごろ頭の中で考えた理屈を振り回している人は、病という現実と向き合う力を欠くことが多いように思われます)。 おもしろい実例を筆者自身がここで提供してくれました。(2011/09/16)

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「全身麻酔の患者を放置して逃げた医師」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

転倒老人の話に関しては常識的と思われるトーンで記述していた筆者が、病院の話では冷静な判断力を失って簡単に“老人の側”の味方になってしまう、実にフィーリングにまかせた感情的記述をしてしまう、思考停止して安易な現場叩きに走ってしまう。 この心理的なメカニズムは、日本の医療崩壊のメカニズムの解明と関連して大変興味深いです。 クレーマー的患者は比較的インテリジェンスの高い人に多いのです(学校や大学の先生、マスコミ関係者、医療関係者など。おもしろいことにビジネスマンは比較的合理的理性的判断をしてくれることが多い。やはり現場をみてきているからでしょうか。先生とかマスコミとか、日ごろ頭の中で考えた理屈を振り回している人は、病という現実と向き合う力を欠くことが多いように思われます)。 おもしろい実例を筆者自身がここで提供してくれました。(2011/09/16)

この筆者のように、インテリジェンスの高いと思われる知識人が、医療の問題に関しては、感情的な、合理性を欠く意見を述べているというのは実に興味深いことです。 筆者は別の稿で、老人を助け起こして訴訟に巻き込まれた話を扱っておられますが、これはまさに日本の医療現場で起きていることと同じだと思って非常に興味深く読みました。 日本の医療崩壊の原因は、医療費削減もありますが、それよりも患者サイドからのあまりにも無理な要求(クレーマーという言葉でよばれますが)により、医療サイドが身を守るため防衛医療に徹するようになったことが最大の原因と現場では考えています。加古川心筋梗塞事件、大野病院事件、大淀病院事件などで、善意でいろいろ努力しても犯罪者扱いされるということを医療関係者は身にしみて理解したのですね。なので、関わらない、特に専門外と救急には関わらないようになった。中国の老人の話とまったく同じです。ひとごとといって話している場合ではないのです。(2011/09/16)

 "その約束事を違えて職務を放棄することは許されることではない。“範跑跑”の場合は幸運にも彼の学生に死亡者は出なかったが、もしも死者が出ていたら彼の人生はどうなっていただろうか。不運にも死者を出した“医跑跑”を中国の法律はどのように裁くのだろうか。" これは現地マスコミの報道内容ではなく、筆者北村氏の意見ですよね。 つまり、北村氏は、この医師達は患者と一緒に焼け死ねとおっしゃっているわけですよね。 それはあまりにも無理がある意見じゃないんでしょうか? この時実際にどういう状況だったのか、実は大した火災ではなくアンビュー換気しつつ脱出可能だったのか、それとも大火事で医師2名が逃げ出すのがやっとだったのか、状況によって判断されるべきものです。現場の状況は現場にいた人でないとわからないこともあり、筆者のように高みの見物をしている類の人間に安易に批判する資格はないと思います。 他の方がコメントされている通り、人の命を救う前にまず自分の命を守ることは救命の鉄則です。この病院の火事対策がどうであったのかなど検証の余地は大きいですが、筆者のように現場の人間に責任を押し付けて一刀両断するやり方はよいと思えません。(2011/09/16)

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