日本人が中国語を学ばなければ日中のパワーバランスが崩れる

日本語を真剣に学ぶ中国人の若者を生かせ

 筆者は現在、中国各地方の大学を講義して回るプロジェクトの渦の中にいる。旅の途中で、大学以外に必ず行く場所がある。書店だ。

 書店は社会の縮図。どの国家、社会でも同様であろう。本が並ぶ空間において、どんな本が出版され、売れているかだけでなく、消費者がどのような表情で書店に足を運び、本を手に取っているかにも興味がある。筆者も、中国語で本を書く人間として、読者の動向が気になるところだ。

 残念なことに、中国では書店が普及していない。日本の諸都市では、どこへ行っても「本」の文字が目に入る。駅前は特にそうだ。ところが、中国ではそうではない。『新華書店』という国営書店が市場を独占している。民間の書店がそこに入り込む隙は、現段階ではない。かつての社会主義市場体制を彷彿とさせる。

 『当当網』や中国版アマゾン『卓越網』などネット経由で本を購入する消費者が激増している。複数の出版関係者に確認すると、「売り上げの半分はネット経由ですね」という答が返ってくる。ネット書店がリアルの書店を凌駕する勢いで成長している。

地べたで座り読みをする顧客も

 数日前、北京大学の付近にある大型書店『中関村図書大廈』(新華書店)に足を運んだ。1階は音楽や映画のDVDなどオーディオビジュアルが中心の品ぞろえ。2階、3階、4階が主に本の販売スペースとなっている。ベストセラーや新刊が所狭しと並んでいた。社会が急速に変革していることを象徴するように、各分野の書籍が次々と入荷する。人気がなく、売れない本は瞬く間に淘汰されていく。この光景に、恐ろしさすら感じた。

 いちばん売れていたのが「いかにカネを稼ぐか」を紹介するマニュアル本だった。金融関係者が書いたマネーものや、新鋭起業家の成功物語もよく売れていた。この傾向は近年変わらないようだ。

 週末ということで、店内は人の海であった。立ち読みはいいとしても、地べたに座り込んで、数時間かけて1冊の本を読み込む読者がやけに目についた。店員も注意しない。売る側も買う側も、知的産物を扱う書店という空間の秩序を少しは重んじてほしいものだ。マナーを守ってほしいと心から思う。

語学の本は大人気

 いつもはあまり訪れない「語学コーナー」に足を運んでみた。親子連れが多かった。一人っ子政策の下で、中国の親はほぼ100%“教育ママ”と化している。子供の教育にお金も時間も惜しまない。

 1組の親子に出くわした。中学生だと思われる少年が嫌がるのをものともせず、母親は受験英語の参考書を籠に放り込んでいた。スーパーの食料品で1週間分の食料を買い込むかのように、目は殺気立っていた。

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著者プロフィール

加藤 嘉一

加藤 嘉一

国際コラムニスト

現在米ハーバード大学アジアセンターフェロー。世界経済フォーラムGlobal Shapers Community(GSC)メンバー。中国版ツイッター(新浪微博)のフォロワー数は150万以上。

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いただいたコメントコメント14件

おっしゃるとおりですね。言うまでもなくその国の文化を理解するための大切なツールです。しかも最近は中国のニュース、その中でもweiboの存在が大きくなってきています。それらを見ずして今の中国を語ることはできないはず。▼一方今後も中国の日本語学習者が増えると日本から来た駐在員はますます日本語の世界に閉じこもり、数年現地にいたとしても何も理解しないまま帰ってゆきます。こういう小さな所のバランスも大切だと思う。(2011/09/09)

中国人の多くが日本語を真剣に勉強するのは、それが直接的に自分の利益に繋がるからなのでしょう。ならばどうしたらこれからの子供たちにも、日本語を通じて利益を提供し続けられるのかを考えたほうが、建設的ではないでしょうか。時間が無限にあるなら、相手が勉強してくれるからこちらも、というのもありでしょうが、限りある時間なのですからわざわざ相手の土俵に降りていくことはないと思います。(2011/09/08)

▼ビジネス相手の母語を習得している方が有利だというのは、常識的に考えてもそのとおりで異論のないところです。政治や安全保障の面でも同様でしょう。現在の中国自体はビジネスパートナーとしてあまり好ましい相手ではないようにも思いますが、中華系が経済の枢要を担っている国も結構多いので、いわゆる中国語の出番は多そうです。しかし、北京語が通じるとは限らないのがネック。一説には、西ヨーロッパの各言語の違いを1とすると、北京語、閩語、粤語(広東語)、客家語など各言語の違いは10ぐらいとも言われ、別の言語だと思った方がよいとすら聴きます。漢字のお陰で文字ならなんとか通じるらしいですが。▼日本語書籍の普及は、日本との商売以外にも実利があるようです。理工系は今一歩英語には及ばないようですが、人文系についてはかなりマイナーな言語のものを含め膨大な翻訳書の蓄積があり、小説などは新刊もどんどん出版されています。日本語をマスターするとそれらの資源を活用できます。そういう意味で、日本人が思っている以上に日本語もかなりパワーがある言語のようですよ。(2011/09/08)

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