「肖敏捷の中国観〜複眼で斬る最新ニュース」

「温州商人の夜逃げ」に見る真の病巣

やはり歴史は繰り返されるのか

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2011年10月13日(木)

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 去る10月4日、国民の祝日である「国慶節」の連休中、温家宝総理が浙江省の温州市を訪れた。公式発表をみる限り、これは今年に入ってから2度目の訪問となるはずだ。しかし、土日や休日もないくらい、地方視察を精力的に行っている温総理にとって、この2回の温州訪問はいずれも不本意なものであったと言わざるをえない。

 前回の訪問は7月28日だった。7月23日、温州で高速鉄道の衝突事故が起きたのを受け、しばらく入院していた温総理は、医者の反対を押し切って駆けつけ、40人が亡くなった事故現場で記者会見を敢行。原因究明について国民に責任のある回答をするよう、関係者に厳命したのだった。

温家宝総理自らが火消しに躍起

 その記憶も新しいうちに、今度は温州の金融危機を沈静化させるための訪問である。

 中国の中小民営企業のメッカとして知られる温州では、今年4月あたりから、海外に脱出するなどで行方が分からなくなった経営者が増え始めた。さらに、最近になって飛び降り自殺者まで現れたことで、「夜逃げ」(中国語で跑路)問題が一気にクローズアップされるようになった。

 既に多くの識者たちが指摘している通り、今年に入ってから中央政府が引き締め政策を強化してきたことが引き金になったと言われている。

 金融機関から貸し渋りや貸し剥がしを受けた一部の民営企業は高利貸しに頼らざるを得ない。そして、「闇金融」の世界では連帯保証が常識であるため、1社が返済不能に陥ればドミノ倒しが起きやすい。雪だるま式に膨らむ借金、急騰する闇金利、厳しい取り立てなどを前に「三十六計逃げるに如かず」という伝統的な知恵が働いたのではないかとの想像もつく。

 温州を訪れた温家宝総理は、中国人民銀行総裁や財政部長などを引率し、民営企業家などとの座談会を開催し、融資強化や税制優遇などの対応策を打ち出した。地元政府や業界団体の呼びかけに応じ、アメリカに逃げた企業家も帰国すると伝えられている。

 温家宝総理自らが火消しに躍起となったこともあって、温州の民営企業家の「夜逃げ」問題はこれで下火になる可能性が高い。しかし、今回の「夜逃げ」を金融引き締めのせいにしてしまうと問題の抜本的な解決にはならない。なぜなら、大規模な「夜逃げ」は今回が決して初めてというわけではないからだ。

民営企業が最初に逃げたのは1949年前後

 民営企業の存在が再び合法的に認められた70年代末以降の推移を見てみると分かることがある。温州の民営企業家の「夜逃げ」が話題になることは、中国における民営企業の生存環境に異変が起きていることの兆しとなっている。逆を言えば、生存環境そのものを大きく変えなければ、このような事態が再発しない保証はないということだ。

 そもそも民営企業が大規模に中国本土から逃げたのは1949年前後が最初だった。

 中華人民共和国の成立に伴い、1952年に共産党政権は、農業、手工業、商業、工業などに対する社会主義改造を行う「移行期総路線」を打ち出した。上海を拠点とする一部の資本家は、共産党に財産を没収されるのを恐れて香港に逃れた。そして、「大躍進」が始まる1958年までに「資本主義の根絶」(毛沢東氏)を目指すこの社会主義改造がほぼ終了し、中国から私有制がほとんど消えることになった。

 しかし、毛沢東氏死去から3年後の1979年、雇用危機を乗り越えるため、鄧小平氏が個人経営を認める方針を打ち出した。これが、再び中国に民営企業が戻る端緒となった。ちなみに、この時、全国で第1号の個人経営免許を取得したのは、温州の章華妹という女性だった。

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著者プロフィール

肖 敏捷(しょう・びんしょう)

肖 敏捷ファンネックス・アセット・マネジメント代表取締役社長、チーフエコノミスト。中国武漢大学卒業後、国費留学生で来日。筑波大学大学院博士課程修了後、1994年に大和総研入社。2010年3月、同社を円満退職した。6月から現職。日経ヴェリタス人気ランキング(2010年)のエコノミスト部門では第5位。著書に『人気中国人エコノミストによる中国経済事情』(日本経済新聞出版社、2010年)などがある。



このコラムについて

肖敏捷の中国観〜複眼で斬る最新ニュース

これまで20年間、東京、香港、上海における生活・仕事の経験で培ってきた複眼的な視野に基づいて、 中国経済に関するホットな話題に斬り込む。また、この近くて遠い日本と中国の「若即若離(つかず離れず)」の距離感を大事に、両国間のヒト・モノ・カネ・情報の流れを追っていく。中国情報が溢れる時代、それらに埋没しない一味違う中国観の提供を目指す。随時掲載。

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