中国では旧暦の8月15日を“中秋節”と呼び、月を眺めて月餅を食べる風習がある。これは日本で「十五夜」に「中秋の名月」を眺めるのと同じ、日本では月餅の代わりに月見団子を食べる。2011年の中秋節は9月12日であったが、中国では中秋節が法定休日で、今年は9月10日から12日までの3日間が連休になっていた。
浙江省温州市の洞頭県は、温州市から見て南東の海上あり、点在する多数の島からなるが、海上に建設された14.5キロメートルの大堤防で温州市の市街地とつながっている。その洞頭県の揚文工業区にある“温州奥米流体設備科技有限公司(Wenzhou Aomi Fluid Equipment Science & Technology Co., Ltd.)”<以下「奥米流体」>は、無菌バルブ、真空バルブ、食品・医薬品の生産設備に使うサニタリーバルブなどを製造する企業である。奥米流体では中秋節の連休を使って従業員全員による1泊2日の慰安旅行が実施された。行き先は温州市からは北東に80キロメートルの距離にあり、温州市に属する“楽清市”に所在する“雁蕩山(がんとうざん)”、中国の名山の1つに数えられる風光明媚な景勝地である。
インスタントラーメン1個が慰安旅行に
中秋節連休が迫ったある日、奥米流体では日頃からケチで有名な社長が突然、中秋節の連休中に従業員全員参加で“雁蕩山”への慰安旅行を行うという通知を行った。毎年、中秋節の時期に従業員に支給されるボーナスはインスタントラーメン1箱だけだったのに、あのケチ社長がインスタントラーメンではなくて慰安旅行を実施するというのだから、これには誰もが驚いた。張り出された通知書には旅行費用は全額会社負担とあったが、全従業員の参加を義務づけて、参加しない者には罰金200元(約3000円)を科すと明記されていた。従業員全員ということは保安係も含まれることになるので、保安係が工場設備の警備が必要だから、自分たちは会社に残ろうと思うと社長に伝えると、社長からは「絶対に参加しろ、設備のことは気にしなくてよい。親戚に言って警備に来てもらうから心配するな」との回答があったのだという。
こうして従業員全員参加による“雁蕩山”への1泊2日の慰安旅行が中秋節連休中に行われたが、連休明けの9月13日の朝に出社した奥米流体の従業員たちは、目の前に広がる光景に驚き呆れるとともに怒りに打ち震えたのだった。何と奥米流体は会社そのものが「もぬけの殻」となっていたのである。会社の正門に「当社は経営不振により生産停止のうえ、再建を図ることになった。会社は人員を手配して給与精算を行っているので、従業員各位におかれては心配する必要はありません」との1枚の通知が張り出されていただけで、会長、社長を含む役員の姿はどこにも無いし、連絡も取れない。そればかりか、総額で1000万元(約1億2500万円)以上の価値がある四十数台の精密加工設備がすべて跡かたもなく消え失せていたのである。これはどうみても全員参加の慰安旅行を実施している間に行われた計画的な会社そのものの蒸発であった。
「日帰りプラン」拒否した奥米流体
後に慰安旅行を手配した旅行社から聴取したところでは、奥米流体から“雁蕩山”への団体旅行の話がきた際に、同頭県から“雁蕩山”までは距離が近いので「日帰りプラン」を提案したが、奥米流体からは何が何でも1泊旅行にするようにとの強い要望があり、その意向に沿って1泊2日の旅行になったのだという。そればかりか、旅行社には前金として8万元(約100万円)が支払われたが、残金の2万元(約25万円)は支払われないままだという。一方、中秋節連休中も奥米流体の敷地内で新工場の建築工事を行っていた建設会社の作業員によれば、「従業員たちが観光バスで慰安旅行に出発してから1時間ほど経った頃、トラックが奥米流体に到着し、工場内の設備を次々と運び去った。工場の設備担当役員は奥米流体の社長の父親だったが、彼は慰安旅行に行かずに残留していたので、不審に思った作業員が問い合わせると、「設備を新しい工場に移送している」と答えたという。
9月26日付の“中国広播網(中国放送ネット)”が報じたところによれば、同社の記者が奥米流体の従業員に取材した結果、未払い給与は1人当たり4900元(約6万2000円)以上。従業員は300人超なので、その総額は150万元(約1900万円)前後になるという。記者の問いかけに従業員は、「社長の携帯電話に電話を入れても、電源が切られていてつながらず、従業員全員が路頭に迷い茫然自失の状態にある」と述べたという。
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