• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

映画は政治に奉仕するものではない

飢餓映画「無言歌」の抵抗

2011年10月26日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 先日、少々地味だが、印象深い映画を見た。反右派闘争でゴビ砂漠の労働改造農場の夾辺溝(ジャービエンゴウ)に送り込まれた右派知識分子たちの悲惨な姿を描いた「無言歌」(王兵監督、2010年)である。

 2010年のベネチア国際映画祭でサプライズ上映されたことで、仲間内では噂になっていた映画が、日本でも上映されることになり、王監督も来日、私もその機会にインタビューすることができた。

 王監督はドキュメンタリー界ではすでに鬼才として名の知られた人であり、この映画は初の物語映画(故事片)とはいえ、夾辺溝の生き残りのインタビューをもとに構成した歴史の再現映画である。個人的にはなかなか好みの映画であった。政治的事件をテーマにしながら、政治臭の嫌味をうまく消している。

私はそんな映画が一番嫌いなんだ

 異論はあろうが、私から見れば中国映画は、体制内映画も体制外映画もほとんどが政治臭を放っている。

 例えば今年の東京国際映画祭でも上映された、辛亥革命100年を記念して中華映画を代表する大スター・ジャッキー・チェンの出演100本目を記念してジャッキーが総監督を務めた「辛亥革命―1911」、建党60年を記念して中国映画人総動員で作られた「建国大業」(2009年)、あるいは1937年の南京事件をテーマにした張芸謀監督の「金陵十三釵」(2011年)は、娯楽性なども狙っているとはいえ、政治的任務を最初から課せられている。

 一方で、「天安門、恋人たち」(婁燁監督 2006年)のように、あえて国内でタブー視されている政治性を持たせることで、国内上映禁止といった話題を作り、海外からの注目と次作の制作費を引っ張ってくる体制外監督も少なくない。いずれにしろ、政治臭をまとうことが中国映画の運命なのだろう。逆に言えば、政治性のない映画は私のような中国映画好きの興味をあまり引かない。

 そういう前提で、王監督に会った時、少々意地悪く、「反右派闘争をテーマにしていることは、あなたは、体制を批判する目的でこの映画を撮ったのか」と聞くと、彼は少々むっとしたように「私の映画は芸術映画だ」と全否定した。そしてこう続けた。「映画は政治に奉仕するものではない。私はそんな映画が一番嫌いなんだ」。

壮絶な飢餓地獄を描いた

 「無言歌」について、少しだけ解説しておこう。原題は「夾辺溝」。中国人ならこのタイトルだけでどういう映画かが分かる。

 甘粛省酒泉の砂漠にある夾辺溝は、1957年から始まった毛沢東の反体制狩り、反右派闘争で右派知識分子のレッテルを張られた3000人あまりが送り込まれた。しかし1959~61年の未曾有の大飢饉(三年自然災害)で、そこは壮絶な飢餓地獄となる。知識分子たちは重労働と栄養不良でばたばたと倒れた。生き残ろうとするものは、亡くなった仲間の墓を掘り起こし、その遺体を食うこともあった。しかし、そうやって地獄を生き抜いた者は3000人中、500人に満たなかったと言われている。

 甘粛出身の作家・楊顕恵氏は5年かけて生き残り100人を探し出し、インタビュー。それをもとに書いたルポタージュ文学「夾辺溝記事」(のちに「告別夾辺溝」に改編)を2000年から「上海文学」誌上で連載。これにより、この凄惨な史実の詳細を初めて、多くの中国人が知ることになった。

 今年は三年自然災害が終わってちょうど50周年である。北京大学近くの「万聖書園」に立ち寄った時、「夾辺溝記事」と、同じく楊顕恵の三年自然災害をテーマにした「定西孤児院紀事」が書店のお薦めベストセラーの1、2位になっていた。

コメント2

「中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス」のバックナンバー

一覧

「映画は政治に奉仕するものではない」の著者

福島 香織

福島 香織(ふくしま・かおり)

ジャーナリスト

大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

もう中山素平のような人物が銀行の頭取という形で現れることはないだろう。

佐藤 康博 みずほフィナンシャルグループ社長