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ギリシャはまだ序曲。債務危機の本編はイタリア

緊急連載 ユーロ危機と欧州合衆国の幻【2】

2011年11月8日(火)

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 ギリシャの一挙一動によって、全世界が振り回された一週間だった。デモクラシー(民主主義)という言葉は、元々ギリシャ語から来ている。今日の形態とは異なるものの、一種の民主主義を世界で最初に制度化したのは、古代ギリシャである。10月末に欧州連合(EU)がブリュッセルで開いた首脳会議の合意内容は、あと一歩で水の泡となるところだった。「民主主義の原点」である国の首相が、ユーロ危機解決の過程に、直接民主主義を持ち込もうとしたからである。

 パパンドレウ氏の首相退陣は決まったものの、この一週間でEUは質的に大きな変化を遂げてしまった。多くの人は気づいていないが、今日のEUは、「ユーロ圏から絶対に脱落者を出さない」と主張していた10月末のEUとは、異なる存在である。

国民投票騒動で、タブーを捨てたEU

 激動の一週間を振り返ってみる。EU加盟国の首脳は10月27日の未明に、ギリシャ政府の民間金融機関に対する債務を半分に減らすことなどを盛り込んだ、包括救済策について合意した。この結果を受けて、欧米の株式市場では、銀行株を中心に株価水準が回復した。だが「サミット相場」は、わずか4日間しか続かなかった。

 10月31日の夜に、ギリシャのパパンドレウ首相が突然「ブリュッセルで決まった支援策を受け入れ、構造改革を続けるかどうかについて、国民投票を行なう」と宣言したからである。この直後、欧州だけでなく米国の株式市場でも株価が下落した。

 各国首脳が国内に山積する仕事を放置してブリュッセルに集まり、ギリシャを救うために徹夜で練り上げた合意が、その「患者」自身の、国内事情を優先した発言によって、崩壊の瀬戸際に追い詰められたのだ。特にパパンドレウ氏が、救済プロジェクトの立役者であるメルケル首相やサルコジ大統領に事前に連絡せずに、国民投票の意向を一方的に発表したことは、彼らの堪忍袋の緒を切らせた。

 独仏首脳は、11月3日から2日間にわたり南仏のカンヌで開かれたG20サミットで、ブリュッセルでの合意内容を報告して、「ユーロ危機克服への重要な一歩が踏み出された」というメッセージを全世界に発信しようと思っていた。ところがその目論見はパパンドレウ首相の一言でご破算となり、G20サミットは、ユーロ救済サミットに変質してしまった。南仏のリゾート地に集まったEU首脳の表情は、硬かった。

 ギリシャはG20のメンバーではない。しかしパパンドレウ首相は、カンヌに呼び出されて、国民投票について説明を求められた。彼はそこで、独仏をはじめとするEU首脳から激しい抗議を受けた。さらにEUと国際通貨基金(IMF)は、11月中にギリシャに支払う予定だった、80億ユーロのつなぎ融資も、凍結した。ギリシャはこの融資を受けられなければ、12月中旬には国債の償還ができなくなり、破綻する。喉元にナイフを突きつけられたようなものである。四面楚歌の状態に追い込まれたパパンドレウ氏は、3日後に国民投票の方針を撤回した。

 だがEUには、いまも重苦しい空気が漂い続けている。国民投票をめぐる混乱は、EUに生じた深い亀裂を決定的なものにしたからだ。この2011年11月3日という日付は、EUが大きく変質した分水嶺として、歴史に残るだろう。

 EUの変質は、メルケル首相がカンヌで語った次の言葉にはっきり表われている。「ギリシャが国民投票の意向を表明したことは、我々のブリュッセル合意後の心理状態を一変させた。我々は、準備が出来ている」。彼女が言おうとしているのは、ギリシャがユーロ圏を脱退する事態に対し、EUの準備が整っているということだ。この発言には、歴史的な意味が込められている。

 2年前にギリシャの債務危機が問題化して以来、メルケル首相を始めとするEU首脳は、ユーロ圏に属する国を一国たりとも脱落させないことを、絶対条件としてきた。彼女はドイツ連邦議会での答弁の中で、何度も「ギリシャを救済する以外に、選択肢はない」という言葉を繰り返してきた。欧州通貨同盟を最も熱心に推進してきたドイツにとって、脱落者が出ることはユーロそのものに対する信用性を傷つけること、つまり一種の「敗北」だからである。

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「ギリシャはまだ序曲。債務危機の本編はイタリア」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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