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ドイツの苛立ちの理由と危機の根源

緊急連載 ユーロ危機と欧州合衆国の幻【3】

2011年11月29日(火)

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 ユーロという患者の「容態」は、相変わらず回復しない。債務危機は、地震や原子炉建屋の水素爆発と違って、目に見えない。原発の炉心溶融と同じく、目に見えないところで事態が少しずつ深刻化する。

 ユーロ圏の「炉心溶融」の深刻さを視覚化する唯一の物が、国債の利回りの折れ線グラフだ。「この国債に投資したら、金が返ってこなくなるかもしれない」と恐れる投資家が増えるほど、国債の利回りは高くなる。利回りが高くなるほど、政府は金を借りにくくなる。利回りがじりじりと上昇する様子は、熱病に苦しむ患者の体温を示しているかのように見える。返済期間が短いギリシャの国債利回りは100%を超えているが、これは紙くず同然の国債であり、誰も投資しようとするものはいない。

イタリア国債への不信感

 10月27日に欧州連合(EU)加盟国首脳がブリュッセルでの徹夜会議で、欧州金融安定化ファシリティ(EFSF)の拡大などの対策を打ち出してから1カ月以上過ぎたが、市場の警戒感は弱まっていない。前回「ギリシャは序曲、本編はイタリア」と書いたが、11月9日には実際に10年物のイタリア国債の利回りが、一時7.4%に達した。

 この「7%ライン」は、債務危機の重要な物差しだ。ギリシャ、アイルランド、ポルトガルは、国債の利回りが7%を超えて以降、EUの緊急融資を必要とし始めたからである。つまり7%から上の水準は、危険水域なのである。

 この日、投資家たちはイタリア国債を売って、「安全度が比較的高い」と見られていたドイツ国債に資金を投じたため、ドイツ国債の利回りは1.7%まで下がった。両国の利回りの開きは、5.7ポイントに広がった。11月12日にベルルスコーニ氏が首相を辞任すると、イタリア国債の利回りは一時7%台を割ったものの、11月下旬になってからは6%と7%の間を行き来する日が続いた。このことは、モンティ政権が財政の健全化を実行できるかどうかについて、マーケットがまだ確信を持っていないことを示唆している。

 イタリアの病の深刻さを示す、ある事実をご紹介しよう。それは、イタリアの利回りが、「解熱剤」のために、かろうじてこの程度の水準にとどまっているということだ。その解熱剤とは、欧州中央銀行(ECB)によるイタリア国債の買い支えである。ECBは、2010年以来、ギリシャ、ポルトガル、イタリアなど債務危機に苦しむ政府の国債を買うことによって、これらの国々の国債利回りの上昇にブレーキをかけてきた。その総額は、11月末の時点で1900億ユーロ(19兆9500億円)にのぼる。

 ECBの本来の役割は、ユーロの安定性を維持するために、通貨政策によって過剰なインフレ(物価上昇)を防ぐことである。欧州大陸、特にドイツの中央銀行は米国と違って国債の買い取りには、慎重だった。ドイツの金融関係者の間では、「ECBが南欧諸国の国債を買い支え、間接的にこれらの政府に金を貸していることは、ECBの本来の任務からの逸脱だ。これらの国々が借金を返せなくなったら、ECBは多額の損失を抱えることになる」という批判的な意見が強い。ECBは「独自の判断で国債を買い取っている」と説明しているが、南欧諸国の破綻を防ぐという政治的な理由で、「解熱剤」の投与を行っていることは、間違いないだろう。つまり、もしもECBが国債を買い支えていなかったら、イタリア国債の利回りは、もっと高くなっているのだ。

ドイツ国債も完売できず

 11月中旬になると、次々に気になる兆候が現われた。まずベルギー、フランス、オーストリア、オランダ、フィンランドなどの国々でも、国債の利回りが上昇し始めたのである。勿論これらの国々の債務問題は、まだイタリアやスペインほど深刻ではない。利回りの水準も、両国に比べてはるかに低い。それでも、利回りの上昇傾向が他の国々にもじわじわと広がり始めていることは、マーケットが「欧州諸国は、債務危機を克服できないのではないか」という強い不信感を抱いていることを如実に示している。実際、ベルギー政府の信用格付けは、スタンダード・アンド・プ―アズ(S&P)によって、11月25日に引き下げられた。

 さらに11月23日には、ある出来事が市場関係者の注目を集めた。ドイツ政府が60億ユーロ相当の10年物国債を入札によって売ろうとしたところ、調達予定額の35%について買い手が見つからなかったのである。国債の入札で応募が100%に達しないというのは、ときおり起きる現象だ。しかしS&Pの信用格付けでAAAの最高値を誇るドイツ国債について、35%も買い手がつなかったのは、異例である。これまでドイツの国債は、投資家が南欧諸国の債務危機で行き場を失った資金を移す「安全な避難港」と見られていただけに、今回の事態には市場関係者も驚いている。マーケットがいかに神経質になっているかを浮き彫りにする、エピソードだ。

コメント5件コメント/レビュー

ふむ。ユーロ共同債が導入されるということは、「みんなで助け合う」というルールが導入されるに等しく、当然市場もその「みんな」に入ることになるでしょうね。つまり投機の規制が行われる下地になるという事です。■現状の危機はマーケットが火に油を継ぎ続け、そこへ政府が水を注いで消火しようとしているようです。市場参加者に自粛しようって考えが無いですから。(2011/11/29)

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「ドイツの苛立ちの理由と危機の根源」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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ふむ。ユーロ共同債が導入されるということは、「みんなで助け合う」というルールが導入されるに等しく、当然市場もその「みんな」に入ることになるでしょうね。つまり投機の規制が行われる下地になるという事です。■現状の危機はマーケットが火に油を継ぎ続け、そこへ政府が水を注いで消火しようとしているようです。市場参加者に自粛しようって考えが無いですから。(2011/11/29)

現在の為替の視点分析(各国の経済力と相関する通貨をユーロに統一した時点で為替の視点からも矛盾を抱えていた)からも現状の混乱が想定されたにもかかわらず経済力・国力の異なる国の通貨を単一通貨に統一した拙速(筆者の指摘の政治・財政面の仕組み欠落含む)がEU危機(世界危機内包)に結びついていることが理解できる。この観点からするとドイツは為替メリットを統一通貨ユーロで最大享受している点からはユーロ共同債への理解を示す必要があると思われる。(2011/11/29)

困った時に寄り添う友人が真の友人、という言葉が思い浮かびました。結局、他国を自分の事としてとらえる事には限界がある、という事だと思います。何も問題なければ、とっくに人類皆兄弟、一つの幸せ大家族になっているはずですよね。あとはもう慈悲と情けの問題ではないでしょうか。(2011/11/29)

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三品 和広 神戸大学教授