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メルケルの敗北~条約改正の失敗で恒常化するユーロ危機

緊急連載 ユーロ危機と欧州合衆国の幻【4】

2011年12月26日(月)

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通常の2倍の頻度で開催されるサミット

 ユーロ危機の深刻さを象徴するのが、EU首脳会議(サミット)の頻度である。EUは過去2年間に、16回もサミットを開催した。その大半が、ユーロ救済だけを議題とする特別サミットである。

 通常、EUサミットは四半期ごとに行なわれる。つまりEUは、債務危機のために、ふだんの2倍のペースで首脳会議を開催したのである。このような事態は、EUの歴史の中で一度もなかった。各国の最高権力者が、内政をほうり出して、ユーロ救済についてこれだけ長い時間を割かなくてはならないということは、事態の緊急性を物語っている。

 サミットの回数の多さは、合意内容の「軽さ」を物語っている。首脳たちが合意内容を発表しても、マーケットの沈静化が長続きしないのだ。

 サミットの結果、燃え上がった火が消され、マーケットが静けさを取り戻すのは、長くても数週間。ひどい時には、会議から数日後には再び火がくすぶり始める。過重債務国の国債の利回りが上昇したり、信用格付けが引き下げられたりするので、EUが打ち出した対策が不十分だったことが、誰の目にもはっきりする。従って、EUは数カ月おきにサミットを開いて、消火作業に当たらなくてはならない。今回の危機ほど、マーケットの奔流の前に政治がいかに無力であるかを、強く感じたことはない。

 サミットは、睡魔との闘いでもある。ユーロ救済に関する首脳会議は、たいてい夜を徹して行なわれる。合意内容を発表するための記者会見が午前5時に行なわれることも、珍しくない。政治家、官僚、記者はみな疲労困憊である。記者会見中に、ある国の財務次官が壁に寄りかかって、数秒間うたた寝をしたのが目撃されたこともある。

 しかも最近のサミットの議題は、単純な問題ではなく、「レベレッジ(梃子)を使った融資限度額の拡大」や「過重債務国に対する、民間投資家の債権の自発的な放棄」など複雑な物が多い。

 そのためか、あるサミットでは、メルケル首相が、記者会見で合意内容を分かりやすく説明することができなかった。メルケル氏は、ふだん問題の細部まで迅速に把握し、複雑な問題を分かりやすく説明する能力が高い政治家として知られている。サッチャーに続くヨーロッパの「新しい鉄の女」と言われる彼女にとっても、深更に及ぶサミットの肉体的・精神的ストレスと、金融ビジネスの専門用語が飛び交う会議の内容は、相当こたえたに違いない。このエピソードは、「政治家たちは、技術的に複雑な問題を、きちんと理解して討議しているのか」という不安感をも抱かせる。

 記者たちは、会議の結果を発表する政治家の口調や表情によって、どの国の主張が通ったかを推測する。会見に臨む政治家が、徹夜しているのに表情が生き生きしており、声に張りがある場合には、その人の意見が通った可能性が強い。逆に声が弱々しく、政治家がさっさと会見を切り上げるのは、主張が通らなかった証拠だ。

財政同盟への第一歩

 2011年の秋以降のサミット後の記者会見では、メルケル首相が徹夜の後とは思えないほど、精気に満ちた表情を見せることが多い。「EUの機関車役であるドイツがユーロを救わなければ、誰が救うのだ」という使命感が、メルケルの表情に気迫を与えている。12月8日にブリュッセルで開かれたユーロ救済サミットの後の記者会見でも、そうだった。

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「メルケルの敗北~条約改正の失敗で恒常化するユーロ危機」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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