「世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」」

中国の賢い泥棒は役人の家から盗む

強盗が腐敗撲滅の義賊として英雄扱いされた

バックナンバー

2012年1月13日(金)

1/4ページ

印刷ページ

 2011年11月24日にネット上のあるブログに次のような驚くべき内容が書き込まれた:

 仰天ニュース:近頃、“山西焦煤集団有限責任公司”(以下“山西焦煤”)<注1>の“董事長(会長)”である“白培中”の家に強盗が入り、数千万元(約4億〜6億円)の物品が奪われたが、その妻は300万元(約3750万円)が奪われたと警察に虚偽の届け出を行った。2人の強盗容疑者が逮捕された後に判明したところでは、強奪された物品の総額は何と5000万元(約6億2500万円)近い金額であった。その内訳は、人民元:600万元(約7500万円)、香港ドル:100万ドル(約1000万円)、米ドル:27万ドル(約2100万円)、ユーロ:300万ユーロ(約3億2100万円)、金の延べ棒:7〜8キログラム(約2800万〜3200万円)、その他に有名ブランドの腕時計、指輪、首飾りなど多数の贅沢品があった。

<注1>“焦煤(粘結炭)”は製鉄用コークスの原料

腐敗・汚職を通じて得た黒いカネ

 “山西焦煤”は山西省の石炭関連企業である“西山煤電”、“汾西砿業”、“霍州煤炭”<注2>の3社によって2001年に組織された集団企業で、傘下に12の子会社を持ち、101カ所の炭鉱を管轄している山西省でNo.1の国有企業である。傘下の“西山煤電”と“山西焦化”は上海株式市場に上場しており、2010年の“山西焦煤”の売上高は1000億元(約1兆2500億円)を上回り、目下のところ中国で最大規模のコークス生産企業である。その“山西焦煤”の会長である白培中の家に強盗が入ったというニュースは瞬く間に伝播した。このニュースはそれから1カ月間は世間の噂に過ぎなかったが、2010年12月17日に広州紙「新快報」が山西省の警察当局が巷間に伝わる白培中の自宅の強盗事件は事実であると確認したと報じたことで新たな展開を見せることとなった。

<注2>“煤電”は「石炭火力発電」、“煤炭”は「石炭」

 強盗事件によって暴き出された白培中の資産は、たとえ大手国有企業のトップであったとしても通常の所得からは考えられない金額であり、誰が見てもその大部分が腐敗・汚職を通じて得た黒いカネであることは疑いのないものだった。そして、12月22日には中国共産党山西省委員会が白培中の“山西焦煤”の会長並びに党委員会書記の職務を免じることを決定、さらに12月25日には山西省紀律委員会が白培中に対する“双規”<注3>を宣告し、同時に山西省検察院が事件の調査を開始したのだった。こうして、強盗による住居不法侵入と強奪事件が大手国有企業のトップである白培中の失脚を引き起こし、“小偸反腐(盗人が汚職取り締まりに貢献すること)”に留まらず、重量級の大物の汚職事件の摘発につながったのだった。庶民は逮捕された2人の犯人を義賊と称え、“反貪局(汚職取り締まり局)”は2人を招聘して重要な任務を委ねるべきだと皮肉った。

<注3>“双規”とは紀律検査部門が決めた時間と場所で汚職関連の取り調べを受けることをいうが、取り調べに期限はなく、対象者はこの期間中完全に拘束される。詳細は2006年10月6日付本レポート「汚職幹部が震えあがる特殊取り調べ “双規”とは?」参照。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント0件受付中
トラックバック
著者プロフィール

北村 豊(きたむら ゆたか)

北村 豊

住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト
1949年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。住友商事入社後、アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、2004年より現職。中央大学政策文化総合研究所客員研究員。中国環境保護産業協会員、中国消防協会員



このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン