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トリプルAを維持してもドイツが喜べない理由

緊急連載 ユーロ危機と欧州合衆国の幻(5)

2012年1月26日(木)

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 欧米では、13日の金曜日は縁起が悪い日とされている。イエス・キリストが 十字架に磔(はりつけ)にされて処刑されたのが、13日の金曜日と信じられているからだ。今年1月13日の金曜日も、ユーロ圏加盟国の多くの首脳たちにとって、「受難日」となった。この日、ニューヨークから舞い込んだニュースが、ヨーロッパ各国の首都と金融市場に、激震をもたらした。

市場に翻弄されるEU

 米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、ユーロ圏加盟国9カ国の信用格付けを一斉に引き下げたのだ。フランスとオーストリアが 最高の格付けであるトリプルAを失った。イタリアは一挙に2段階格下げされてトリプルB+となった。これは、ペルー、コロンビア、カザフスタンと同じ水準である。他にはスペイン、ポルトガル、キプロスの格付けが2段階、マルタ、スロバキア、スロベニアが1段階下げられた。

 さらにS&Pは、ユーロ圏にとって重要な緊急融資機関である欧州金融安定基金(EFSF)からもトリプルAを剥奪した。EFSFの資金を保証するユーロ圏加盟国のうち6カ国が、これまでトリプルAを持っていた。今回、そのうちの2カ国が最高格付けを失ったからである。格付けが下がれば、資金調達コストは上昇し、投資家を集めにくくなる。

 EU首脳たちはEFSFに大きな期待を寄せ、「債務危機に対抗するためのバズーカ砲」という勇ましいあだ名をつけていた。だが、この「兵器」は実際に戦闘で使用する前に、火力が衰えてしまった。

 各国の首都では、格付け会社に対する非難の声が一斉に上がった。フランスのサルコジ大統領は、「前例のない危機だ」とコメント。彼は今年の大統領選挙で、苦戦することが予想されている。このため、同国が1975年以来保持してきたトリプルAを、年明け早々に剥奪されたのは痛い。フィヨン首相は有権者の動揺を防ぐために、「我が国の政治は、格付け会社によって左右されない。財政を健全化するプランは順調に進んでいる」と述べ、この格下げのために歳出削減を強化する必要はないと指摘した。

 ユーロ危機の「消火活動」を必死に行なっているEUにとって、米国の格付け会社は目の上のコブだ。情報サービス企業が発表する見解によって、政府の資金調達コストが増し、財政政策の行方が大きく左右される。過重債務国の救済がさらに困難になる。

 格付け会社に対する、各国政府の対抗措置は限られている。首脳たちは歯噛みをしてその発表を受け入れるしかない。「救済措置を講じている間だけでも、格付けを禁止するべきだ」という声や、ヨーロッパ独自の格付け会社を創立するべきだという意見も出ている。いずれも「負け犬の遠吠え」に聞こえる。

 ヨーロッパ各国の苛立ちは、政治が、マーケットの大波によって翻弄されていることを象徴する。各国政府は事態の流れを自らの力で変えることができず、むしろ事態に流されることの方が多くなっている。過去2年間に16回も行なわれた首脳会議の市場沈静効果はよくて数カ月、ひどい時には数週間しか持続しない。各国政府は長年にわたって、債務を返済するためにGDPの規模を増やすのではなく、民間のマーケットで国債を売ることに依存してきた。そのつけが、今回ってきたのである。

フランスの誇りに深い傷

 市場は、今のところ平静を装っている。1月19日に、フランスが80億ユーロ、スペインが66億ユーロの国債入札を行なった。S&Pによる格下げにもかかわらず、投資家からの注文が殺到。どちらの国も難なく国債を売ることに成功し、利回りは2011年末の入札を下回った。両国政府の関係者たちは、胸をなでおろしたに違いない。

 だが今回の格下げは、フランス人にとって、借金の返済能力の評価にとどまらない、重い意味を持っている。特に独仏関係におけるフランスの立場に、微妙な影を落とすことは確実だ。

 同国はこれまでドイツとともに、ユーロ危機との戦いの中で重要な舵取り役を演じてきた。メルケル首相とサルコジ大統領は「メルコジ」というあだ名をメディアから付けられるほど、緊密なチームプレーを見せた。その背景には、両国ともトリプルAを持つ「ヨーロッパの優等生」という自負があった。

コメント1件コメント/レビュー

労働コストが低かったのは、東ドイツ吸収の遺産ではないでしょうか?いきなり労働人口が増えたのに、東ドイツの産業は、生産性が低すぎて、採算が取れなくなったわけですから。(2012/01/26)

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「トリプルAを維持してもドイツが喜べない理由」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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労働コストが低かったのは、東ドイツ吸収の遺産ではないでしょうか?いきなり労働人口が増えたのに、東ドイツの産業は、生産性が低すぎて、採算が取れなくなったわけですから。(2012/01/26)

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