「中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス」

共産党の政権交代を前に苛烈極める政治暗闘

王立軍氏失脚は薄煕来氏を道連れにするのか

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2012年2月15日(水)

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 2月に入ってから重慶市の公安局長だった王立軍氏失脚の報道が続々と出できた。

 まるでアニメか何かに出てくる架空の王国の軍隊のような名前だが、今、王氏が直面する状況はアニメマンガより劇的かもしれない。ネットには、王氏が暗殺を恐れて老婆に扮し成都の米総領事館に逃げ込んだ、といった映画さながらの噂も流れている。王氏が総領事館に来たことは、総領事館が確認しているので事実だ。どうやら、今年秋の政権交代を前に、政治の暗闘は苛烈を極めているようである。

公安畑一筋の「東北の虎」

 王氏は、薄煕来・重慶市共産党委員会書記の懐刀として、「打黒」(マフィア・汚職撲滅運動)で剛腕をふるった人物だ。薄煕来氏については、このコラムでも以前取り上げたので参照していただきたい。

 内モンゴル自治区出身のモンゴル族で、遼寧省で公安畑一筋を貫き、体に20以上の傷あとがある武闘派刑事。「東北の虎」の二つ名もある。彼が遼寧省鉄嶺市公安局長だったときの遼寧省長が薄煕来氏という関係から、薄氏が直轄市重慶市党委書記に異動となったとき、この「東北の虎」を遼寧省から呼び寄せたのだった。そして、重慶から中央指導部入りを狙うため、薄氏が始めた二大政治パフォーマンス「打黒・唱紅」のうちの「打黒」の陣頭指揮を取らせ、重慶市にはびこるマフィアおよびマフィアと癒着した官僚を根こそぎ捕まえた。当時の重慶市司法局長・文強氏はその汚職の黒幕として死刑に処された。

 重慶市はこの「打黒」のおかげで、たいへんクリーンな街になったと言われ、王氏の功績は広く評価され、昨年は重慶選出の全国人民代表(国会議員のようなもの)になり、北京郵電大学の教授職にもついた。しかし、その王氏が2月2日付けで、突然公安局長の職を解かれた。彼はそれまで公安局長と副市長(司法、治安維持などを担当)を兼務していたが、今後は副市長(教育、科学、環境担当)に専任すると発表された。これを受けて一部日本のメディアは昇級などととんちんかんな解釈をしていたが、公安畑一筋の鬼警部を教育・環境担当にするなど、どう考えても、なんらかの懲罰的人事である。米国を拠点とするネットニュースの博訊や香港、台湾消息筋は、これを失脚と報じていた。

 この直後、重慶市はオフィシャルの微博(マイクロブログ)で王氏の解任の理由について「800字」の評価を発表した。いわく、「王氏は政治的立場・思想は堅牢で、目的意識と大局的な観念が強く、プロ意識と責任感も強く、原則を堅持するあまり、あえて強硬な面もあるが、やることは公平公正で、自己に厳格で、人々の評判もよい。」「ただ残念なのは、時に性急に仕事をしすぎ、人を批評するとき迂闊な方法をとることがある」

 重慶市の発表は王氏の功績を認めながらも、暗に王氏は人の恨みを買っており、重慶市からフェードアウトしてもらわねばならない事情があることをうかがわせていた。

 実は、王氏失脚の予兆というのは、彼がまだ打黒で辣腕をふるっていた2009年ごろから見えていた。遼寧省鉄嶺市公安集団汚職事件の摘発である。鉄嶺市は王氏がかつて公安局長を務めた市だが、当時から王氏が地元マフィアと癒着し、その利権が遼寧省長であった薄氏とつながっているという噂はあった。

 ちなみに薄氏は自ら「打黒」キャンペーンを打ち出してはいるが、大連市委書記、遼寧省長などを歴任した東北時代はかなり黒い噂がある。中国の政治家たちの給料は閣僚級でも年収十数万元レベル。薄氏の息子が英国貴族学校ハロウ校からオックスフォード、ハーバードと英米留学を続け、赤いフェラーリを乗り回し、パーティにジャッキー・チェンを招くような贅沢な暮らしぶりをしていることは、ネットに流れるあまたの噂や写真とともに、結構知られていることで、薄氏の汚職疑惑に信憑性を持たせていた。

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著者プロフィール

福島 香織(ふくしま・かおり)
ジャーナリスト

福島 香織 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002〜08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。著書に『潜入ルポ 中国の女―エイズ売春婦から大富豪まで』(文藝春秋)、『中国のマスゴミ―ジャーナリズムの挫折と目覚め』(扶桑社新書)、『危ない中国 点撃!』(産経新聞出版刊)、『中国のマスゴミ』(扶桑社新書)など。



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 中国において公式の新聞メディアが流す情報は「新聞」だが、中国の公式メディアとは宣伝機関であり、その第一の目的は党の宣伝だ。当局の都合の良いように編集されたり、美化されていたりしていることもある。そこで人々は口コミ情報、つまり知人から聞いた興味深い「趣聞」も重視する。
 特に北京のように古く歴史ある政治の街においては、その知人がしばしば中南海に出入りできるほどの人物であったり、軍関係者であったり、ということもあるので、根も葉もない話ばかりではない。時に公式メディアの流す新聞よりも早く正確であることも。特に昨今はインターネットのおかげでこの趣聞の伝播力はばかにできなくなった。新聞趣聞の両面から中国の事象を読み解いてゆくニュースコラム。

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