「世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」」

若き女性富豪に対する死刑判決に揺れる中国世論

極悪人が死刑にならず小者が死刑になるのは不公平

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2012年2月24日(金)

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 2012年1月18日の午後、浙江省の省都・杭州市にある“浙江省高級人民法院(高等裁判所)”で30歳の女性“呉英”による“集資詐騙(出資詐欺)”事件に対する二審判決が言い渡された。2009年12月18日に“金華市中級人民法院(地方裁判所)”で下された一審判決、「出資詐欺罪により死刑、政治的権利の終身剥奪、個人財産の全てを没収」を不服として呉英が上告した上級審の判決であり、二審制を取る中国では彼女の運命を決める最後の判決であった。

 被告人席で起立する呉英に対して裁判長は次のような二審判決を言い渡した:

 2005年5月から2007年2月までの期間に、被告人の呉英は民間の出資を募る形式で7.7億元(約100億円)の資金を集めたが、その後4億元(約50億円)近い金額を返済不能に至らしめた。被告人が出資詐欺罪を犯した事実は明白であり、証拠も確かで充分に揃っている。呉英の出資詐欺は金額が極めて大きく、国家と国民の利益に重大な損害を与え、犯罪の情状は非常に深刻であり、法に基づいて厳罰に処さねばならない。一審判決は正しく、その量刑は適当で、裁判の手続きは合法である。よって、本法廷は一審の死刑判決を支持し、法に基づき最高人民法院に本判決を報告し、死刑判決の再審査を申請する。<注1>

<注1>死刑は最高人民法院の再審査を経なければ執行できない規定があり、最高人民法院は再審査の結果、死刑が妥当と判断すれば、死刑執行の許可を出す。

26歳で突然世に出た「神秘の富豪」

 浙江省高級人民法院が一審の死刑判決を支持し、呉英の上告を退ける二審判決を下すと、中国国内のメディアは一斉に「2006年に26歳で総資産38億元(当時のレートで約570億円)として“2006年胡潤百富榜(2006年胡潤富豪ランキング)”で第68位、またその“女富豪榜(女性富豪ランキング)”では第6位にランクされ、国内最年少の神秘の富豪と呼ばれた呉英に死刑判決」という趣旨のニュースを大きく報じた。ただし、筆者が確認した限りでは、“2006年胡潤百富榜”に呉英がランクされた事実はなかった。その実態は2006年当時、あるメディアが呉英の資産は38億元と言われているから、“胡潤百富榜”なら68位、“女富豪榜”なら6位にランクされるはずと報じたのが、いつの間にか一人歩きして既成事実のようになり、それを他のメディアが事実確認をしないままに受け売りの報道を行ったものだった。それはさておき、呉英が2006年当時、わずか26歳で突然に富豪として世に出たことから「神秘の富豪」と呼ばれていたことは紛れもない事実だった。

 呉英は1981年5月20日に浙江省中部にある東陽市の農民家庭に生まれた。彼女が十数歳の頃にある人が父親に支払うべき工事代金百万元(1995年当時のレートで約1200万円)を踏み倒し、父親が訴訟を起こすのを目にして世間の難しさを学んだ。また、東陽市に隣接し軽工業品の卸市場が林立する“義烏市”<注2>で商売の面白さを見聞きした可能性も高く、呉英は自分の将来の展望について思い悩んでいた。呉英は技術専門学校に進学したが中途で退学し、父の妹が経営する美容院に就職して美容技術を学んだ。その後、夫となる“周紅波”と知り合って結婚し、2人で美容院「一生美美容美体サロン」を開店した。

<注2>“義烏市”は日本の100円ショップの故郷と言われ、100円ショップの商品の多くが義烏市で買い集められて日本へ出荷される。義烏市の軽工業品卸売センターは世界最大級を誇る規模である。

 当時、東陽市の繁華街の一つである“西街”には高級な美容院がなかったこと、また当時流行した「羊の胎盤エキス」による美容法を導入したことで、美容院ビジネスは大繁盛して大いに儲かった。これに続いて、呉英は東陽市で最大の足裏マッサージ店“千足堂”を開店した。自動車のレンタル業が儲かりそうだと目をつけると、蓄えてきた資金を一気に吐き出して自動車を十数台購入した。「韓国ブーム」が到来すると、韓国衣料の店を開店した。そして、遂には“喜来登娯楽城(シェラトン娯楽センター)”を買い取って娯楽センターの社長にも収まった。

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著者プロフィール

北村 豊(きたむら ゆたか)

北村 豊

住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト
1949年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。住友商事入社後、アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、2004年より現職。中央大学政策文化総合研究所客員研究員。中国環境保護産業協会員、中国消防協会員



このコラムについて

世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」

日中両国が本当の意味で交流するには、両国民が相互理解を深めることが先決である。ところが、日本のメディアの中国に関する報道は、「陰陽」の「陽」ばかりが強調され、「陰」がほとんど報道されない。真の中国を理解するために、「褒めるべきは褒め、批判すべきは批判す」という視点に立って、中国国内の実態をリポートする。

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