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債務危機で再浮上した「醜いドイツ人」という偏見

メルケル首相にナチスの軍服とカギ十字の腕章

2012年3月30日(金)

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 第二次世界大戦の直後、ヨーロッパ人がドイツに対して抱くイメージは、概して悪かった。フランスやイタリアの新聞が掲載する風刺画は、ドイツ人を、軍服に独特の鉄兜、長靴で周りの国々を傍若無人に踏み荒らす人物として描くことが多かった。戦争中にナチス・ドイツが周辺国にもたらした被害を考えれば、無理もない。

 西ドイツが高度経済成長を達成すると、風刺画の中で軍服を着ていたドイツ人は、大型のベンツを運転し、強い通貨マルクで周囲の国々を席巻する観光客のスタイルに変わった。スペインやイタリアの保養地は、リッチなドイツ人観光客であふれる…。大戦初期の電撃作戦でフランスやオランダを蹂躙した戦車が、ベンツに象徴される強力な経済マシーンに変容したのだ。

「醜いドイツ人」のイメージが復活

 もちろんドイツ市民には、こうした偏見と先入観に満ちたイメージにあてはまらない人も多い。だが外国人の頭の中には、このようなイメージが焼きついた。ヨーロッパの新聞の風刺画が、我々日本人を、目が細くて釣り上がり、眼鏡をかけた、背広にネクタイ姿のサラリーマンとして描くのと同じである。

 このステレオタイプ化したドイツ人像は、ヨーロッパでは「醜いドイツ人」と呼ばれた。そこには、戦争で国土が荒廃したにもかかわらず、見事に復興し高い生活水準を勝ち取ったドイツ人への妬みもあったに違いない。

 知識階級に属するドイツ人、特に政治家たちは、外国人から「醜いドイツ人」と見られることを好まず、このイメージを払拭しようと努力してきた。戦後の西ドイツがナチス時代の過去と批判的に取り組んでいるのは、その表れである。彼らは、歴史教科書の中で多くのページを割いて、ナチス時代にドイツ人が犯した犯罪について詳述している。さらに、ナチスの戦犯を今なお訴追したりしている。

 だがドイツが1990年に統一し、欧州連合(EU)の政治・経済統合を積極的に進めるようになってからは、「醜いドイツ人」のイメージは弱まっていた。ドイツが、信用力の高い通貨マルクを自ら放棄したことも大きな効果を持った。「ナチスの過去との対決」も大きく貢献した。

 債務危機がヨーロッパに与えた最悪の被害の一つは、ドイツに対する「負のイメージ」が周辺国の間で復活し、感情的な亀裂が深まったことである。特にギリシャとドイツの間では、相互不信が強まっている。

 そのことが顕著に表れたのは、2012年の初めだった。EUと国際通貨基金(IMF)がギリシャ政府の破綻を防ぐための、第二次緊急融資について交渉していた時である。ドイツはEUとIMFが総額1300億ユーロ(13兆円)に上る融資を行なう条件として、ギリシャ政府に対し節減策をより厳しく実施することを求めた。

ドイツ批判に、アウシュビッツまで登場

 この時、ギリシャの新聞は、 ドイツ人の神経を逆なでするような写真や風刺画を次々に掲載した。例えば「デモクラティア」紙は2012年2月に、ナチスの制服に身を固め、ハーケンクロイツ(カギ十字)の腕章を付けたメルケル首相の写真を1面に載せた。ドイツの法律は、カギ十字の紋章を公共の場で掲げることを禁じている。ギリシャ人たちはそのおぞましいシンボルを、写真の中のメルケル首相の腕に付けさせたのだ。

コメント5件コメント/レビュー

氷のような利己主義――そもそも異常事態が発生しても協調的な態度で乗り越えようとするのが当然とする、つまり相互扶助コミュニティを常識とする文化は、少なくとも先進諸国では日本ぐらいのものではないかと思うのは私だけだろうか。そしてギリシャ、イタリア、中国、アメリカのプライドが、世界を何に巻きこんで行くのか――▼ともあれ、今のEUの姿を戯画的に描いてあり、非常にわかりやすかった。(2012/04/02)

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「債務危機で再浮上した「醜いドイツ人」という偏見」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

氷のような利己主義――そもそも異常事態が発生しても協調的な態度で乗り越えようとするのが当然とする、つまり相互扶助コミュニティを常識とする文化は、少なくとも先進諸国では日本ぐらいのものではないかと思うのは私だけだろうか。そしてギリシャ、イタリア、中国、アメリカのプライドが、世界を何に巻きこんで行くのか――▼ともあれ、今のEUの姿を戯画的に描いてあり、非常にわかりやすかった。(2012/04/02)

ギリシアはEUから離脱すべき。経済の状況が違う国の通貨を無理矢理統一すれば、こうなるのは当然。そう考えれば、中国や東南アジアを含めたアジア経済圏の通貨統一など不可能なのは自明。世間には世界統一妄想がある。統一=理想の体制というもの。これはイデオロギーであり、非現実的である。おそらく共産主義の世界を共産主義で統一するのが理想と言う思想がまだ残っていて、なんでも統一するのが理想と言う妄想になっているのではないか?(2012/04/01)

歴史を知る者には特に驚くべき話ではない。ただ過去と異なるのは時間の進み方が加速しているということ、不確実性が高まっていること、地球環境への影響が拡大しているということ、などだ。それにしてもルクセンブルグは批判の対象にならない立ち振る舞いの上手な国だ。(2012/03/30)

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三品 和広 神戸大学教授