カタールの衛星テレビ・アルジャジーラ英語部門の北京特派員で米国籍のメリッサ・チャン記者が中国当局からジャーナリストビザの更新を拒否され、事実上の国外退去処分となった。後任の記者に対してもビザがおりず、アルジャジーラ英語部門は支局を閉鎖せざるを得なかった。5月8日にアルジャジーラが発表した。
このニュースに私もいろいろ感じるところがあった。私も新聞記者として北京に駐在していた2007年暮れ、ビザ更新ですったもんだした経験がある。私も、というより、北京で特派員記者をやっていれば、誰だって1度や2度はビザ問題でもめるものである。今回は中国で海外記者が直面する諸問題について、少々自分の経験も交えて紹介したい。
西側メディアの過熱取材にブレーキをかける狙い?
メリッサ・チャン記者は2007年から北京に駐在、果敢な報道で勇名をはせてきた。私の北京駐在時代と1年ほど重なっているが、個人的なつきあいはない。むしろ、アルジャジーラといえば、アラブ系の男性記者イザットと現場で一緒になる方が多かった。彼女がビザ更新を拒否された理由は明らかにされていない。たとえ中国当局が、その理由を言ったところで、本当の理由でないかもしれない。
理由の一つと考えられるのはチャン記者の報道内容である。彼女は「中国の闇監獄」突撃ルポをはじめ中国の社会問題や人権問題を積極的に取材していた。このルポは3月に放送され、けっこうな反響があったそうだ。中国はこういったテーマを自国の恥部と考えており、外国メディアに報じられることを嫌がる。
ちなみに闇監獄というのは、中国の全国各地にある地方行政単位が自前でつくる違法性の高い監禁施設だ。地方から北京に来る陳情者らを地方当局が拘束し監禁し、虐待や拷問をくわえたりすることもある。だいたい簡易宿泊施設や病院などに設置される。
ただ、この闇監獄問題は2009年以降、中国メディアもさかんに報道してきた。なかでも新華社系の中国時事誌「瞭望」(2009年11月号)の潜入ルポは、実に生々しく、北京市周辺に各地方政府が作った闇監獄が73カ所に上るといった、中央メディアならではのデータも盛り込まれ、中国当局がこれまで建前としてきた「闇監獄は存在しない」という主張を一転、覆すものとして当時、大きな話題になった。私の認識では、その後は、闇監獄取材はさほどタブーではない。ロイターもAPも報道してきた。そもそも闇監獄は、地方政府の違法行為であり、中央の権威を揺るがすものではない。
もう一つの理由として考えられるのは、アルジャジーラ本社が制作したドキュメンタリーシリーズで、中国の労働改造所(思想犯に対し労働を通じて矯正を図る施設)の実態などを取り上げたことだと言われている。中国当局は強いクレームをたびたび寄せていたことはアルジャジーラが公表している。この番組制作については、北京特派員のチャン記者は関係していない。
アルジャジーラ本社に中国当局がクレームを寄せているさなかに、チャン記者が突撃ルポをやったものだから、中国当局とてしては、なめられた、メンツをつぶされた、という気分になったかもしれない。
その場に居てナンボ....確かに現場から(読者に成り代わって)見たこといろいろと伝えるのが記者の仕事なのですが、記者が伝えたいものと実際に伝えるものとが整合していない可能性がある(高い)、ウソではないが意向が入っている、というのでは、単なる宣伝読み物にしかならないわけで....なんだかネ-?(2012/05/21)