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メルケル首相の黄昏

EU首脳会議で敗北したドイツ、勝利したイタリア・スペイン

2012年7月5日(木)

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 6月28~29日にブリュッセルで行われたEU(欧州連合)首脳会議の結果を受けて、日本では一時的に株価が回復した。ユーロに対する円高傾向も、やや弱まった。しかし欧州では、この傾向は長続きしないという観測が強まっている。それだけではない。EUの一部の政府や企業は水面下で、「ユーロ圏崩壊」という最悪のシナリオを想定。これが現実化した時の、経済への悪影響について検討を進めている。

独メルケル首相がイタリア、スペインに譲歩

 今回の首脳会議での合意内容は、ユーロ危機に対する戦いの中で、一つの分水嶺となるかもしれない。ドイツ政府が、南欧諸国に対する支援を拡大することに同意する姿勢を見せたからだ。条件付きとはいえ、それまで固執していた原則を破った。メルケル首相は、他国からの圧力に抗しきれなくなったのだ。ドイツに対して、欧州諸国からだけでなく米国からも批判が高まっていた。「緊縮策だけに固執するのをやめて、南欧諸国を真剣に支援するべきだ」。

 だが同時に、ドイツ国民の間ではメルケル首相の譲歩について、批判的な声が高まっている。EU最大の経済パワーであるドイツでは、今回の合意内容をめぐって、「通貨同盟は今後、ドイツにどれほどの負担を求めてくるのか?」という不安感が一段と高まるだろう。

 それでは、この2日間の会議で各国首脳たちが何を決めたのかについて、分析してみたい。

 EU首脳会議が終わった後は、どの国の首脳も「勝利宣言」を行なうのが慣例となっている。共同声明が発表されると、首相や大統領たちは自国のジャーナリストたちの前で「国益を守った」とか「わが国の主張が受け入れられた」と言って「成果」を強調する。

 6月29日、ブリュッセルでの徹夜の首脳会議を終えて、記者団の前に立ったドイツのメルケル首相も、「我々は、ドイツが主張してきた原則を貫いた」と語り、微笑を見せた。しかし首相の笑顔には、まるで仮面でもかぶったような、ぎこちなさが感じられた。

 その理由は、ドイツがこの首脳会議で最大の「敗者」となったからである。メルケル首相は欧州金融安定メカニズム(ESM)をめぐる議論で強硬な姿勢を初めて崩し、他国に対して譲歩した。EU各国の首脳は、29日に発表した共同宣言の中で、「ユーロ圏全体を監視する銀行監督官庁が設立されるなど、一定の条件が整えば、ESMは経営難に陥った銀行に直接融資することができる」と発表した。

 フランスのオランド大統領は「他の国に妥協させるための最善の道は、自分が妥協することだ。今回のサミットでは、全ての国が妥協した」と述べた。ドイツを名指しすることを避けながらも、同国がESM改革について反対姿勢を弱めたことを、前向きに評価した。

ESMによる銀行への直接融資が焦点に

 今回の首脳会議で焦点となったESMは、ギリシャのように債務危機に陥った国を援助する、緊急融資機関だ。EUが2010年に創設した欧州金融安定基金(EFSF)を永続的な機関とするために作った。

 スペイン政府はEUから緊急融資を受けると、公的債務比率(GDPに対する債務の比率)がさらに上昇する。するとスペインは国債を売る際にこれまで以上に高い金利を払わなくてはならなくなる。資金の調達がますます困難になる。EUが「銀行と国債の悪循環」と呼ぶ事態である。

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「メルケル首相の黄昏」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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