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地下鉄で頻発する乗客同士のいさかい

高まる精神的ストレスに座席の争奪で流血の殴り合い

2012年10月26日(金)

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 2012年9月15日に陝西省西安市で行われた日本政府による尖閣諸島国有化に抗議する反日デモで、運悪く日本車を運転中にデモに巻き込まれた51歳の“李建利”を鉄製のバイク盗難防止用ロックで殴って頭蓋骨骨折の重傷を負わせた犯人の“蔡洋”は、10月2日に生まれ故郷の湖南省南陽市の実家で逮捕された。

 蔡洋は1991年生まれの21歳、貧困の故に小学校を5年終えた時点で中退して臨時工となり、2009年からは西安市で左官工見習として働いていた。李建利は開放性頭部損傷による脳挫傷で右半身麻痺と言語障害が残り、今後は正常な生活を送ることはもとより、従来通り働くことも困難である。一方、蔡洋およびその家族から損害賠償を受けようにも貧しい彼らの生活ぶりからは到底困難で、一家の大黒柱を襲った突然の不幸に李建利の家族は途方に暮れている。蔡洋をデモに便乗した暴力行為に走らせたのは、貧困な生活に打ちひしがれ、夢も希望もない自己の人生に対する不満のはけ口を求めたものだった。

 ところで、中国語で“搶座位”は「座席を奪い合う」こと、“推搡”とは「押し合う」ことを意味する。中国メディアは9月中旬から10月2日の蔡洋逮捕当日までは反日デモのとばっちりを受けた李建利事件に関するニュースを盛んに報じていたが、その後は各地で頻発する地下鉄での座席の奪い合いや乗降時の押し合いに起因する事件にその矛先を移している。その代表例を見てみると以下の通りである。

67歳の老人と28歳の男性が車内で血みどろの戦い

≪その1≫

 10月8日の朝8時頃、広東省の省都“広州市”を走る広州地下鉄4号線の車内で67歳の老人と28歳の男性教員が座席を奪い合って取っ組み合いのけんかをするという事件が起こった。このつかみ合いの模様はたまたま同じ車両に乗り合わせていた人が撮影した動画がテレビ放映され、それがネットで流されたため、全国に知れ渡ることとなった。その事件の概要は次の通り。

【1】10月8日朝8時頃、広州地下鉄4号線の“車陂南站(しゃはなん駅)”のホームは電車の到着を待つ人々が列を作っていた。“中国紅十字会(中国赤十字)”の退職者で67歳の陳老人は優待席のあるドアの位置に作られた列から離れて電車の到着を待っていた。一方、28歳の男性教師である“呉家輝”は同じドアの位置の列の前から3番目に並んでいた。電車が到着すると、我先に乗り込もうと人々が電車のドアに殺到したが、陳老人が急に割り込んできたので、呉家輝は「割り込むな」と陳老人を怒鳴りつけた。その時、電車のドアが開いたので、呉家輝は自分の前に割り込んだ陳老人を押しのけて車両に乗り込んだ。呉家輝と陳老人は相前後して空いている座席にたどり着いたが、呉家輝に押されて倒されそうになったことに怒り心頭の陳老人は空席を見向きもせず、空席に座ろうとしていた呉家輝に「老人証」を示しながら声を荒げた。

【2】「俺はもうすぐ70歳の年寄りだぞ。おい、若いの、お前は俺を座らせないようにしたばかりか、押し倒そうとしたな。若者は老人に席を譲るべきじゃないのか」。周囲の乗客は誰も予期していなかったが、陳老人はこう言い終わるや否や呉家輝に殴りかかった。突然殴られた呉家輝は言い返す暇も無く、陳老人を殴り返すと同時に蹴りを一発見舞った。これを見ていた乗客たちは2人を抑えようとしたが、激昂した2人がどちらも譲歩する様子を見せないのでただ傍観するだけ。そうこうするうちに、2人は組んず解れつの激しいつかみ合いを始めた。ところが、意外にも陳老人は力が強い上に呉家輝の耳に噛みついたので、格闘は陳老人が優勢に展開した。呉家輝は頭と腕から出血したのに対して、陳老人は顔面を鼻血で染め、車両の床には血しぶきが飛び散った。陳老人が髪の毛をつかんで呉家輝を座席に押さえ込むと、呉家輝は座席から転がり落ちて陳老人の手から逃れて反撃に出る。

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「地下鉄で頻発する乗客同士のいさかい」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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