尖閣諸島(中国名:釣魚島)の国有化を発端に、9月15日に中国全土で大規模な反日デモが起きてから、そろそろ2カ月が経過しようとしている。この間、筆者は講演会やテレビ出演などでこの件についてコメントしたことはあるが、机に向かって原稿を書こうとすると手が止まっていた。
また、最初は日中双方の論者たちが書いた論評を真面目に読んでいたのだが、だんだん目に入れたくなくなり、テレビでこうした内容が映っても、すぐチャンネルを変えてしまうようになった。
中国の友人だけでなく、日本の友人との間でも、この問題に関する議論はタブー視されている。日中の政治や経済などについて本音で語り合ってきた友人との間で、明らかにこれまでと異なる距離感が生じているのは、決して気のせいではない。ナショナリズムほど破壊力の強いものはないと改めて痛感した。
中国の関係者もまた反日デモの被害者
「日本が悪い」「中国はけしからん」のどちらの立場に立つにせよ、はっきりと怒りをぶつける対象を持っている方々はむしろ羨ましい。48年間の人生で、中国と日本で過ごした年数がちょうど半分ずつとなった筆者は沈黙を守るしかない。
両親が喧嘩した際、自分の部屋に逃げ込む子供の気持ちがよく分かる。物わかりの良い夫婦なら、子供の一言で喧嘩を止めるかもしれないが、今回は結婚記念日とも言うべき国交正常化40周年記念式典すら中止されてしまった非常事態の中、子供が何を言っても無駄だ。あまり適切ではないかもしれないが、こういった例えしか浮かんでこないのというのが、筆者の現在の心境だ。
「あの島は誰のもの」という「踏絵」を前に強い無力感を味わっている人は、日中関係に携わっている皆さんの中にも少なくないはずだ。
反日デモの影響で、中国での日系メーカーの自動車販売台数が大幅に減り、日中双方を訪れる観光客が急減し、経済や文化など様々な人的交流も中断するなど、その被害が広がっている。
日本だけでなく、中国の関係者もまた被害者である。ご存じの通り、中国で販売されている日本車のほとんどは日中の合弁企業が生産しており、いわば一蓮托生の関係にあるからだ。毎年、観光やビジネスなどの目的で中国を訪れる日本人の渡航者数は、日本を訪れる中国人の3倍にも上る。また、東京国際映画祭への参加を中止せざるを得ない中国の映画関係者の無念さも痛いほど分かる。
丹羽前駐中国大使は先日の名古屋大学の講演で、日中関係の修復には40年以上かかるかもしれないとの危惧を表明した。時間がたてば、日中間のヒト・モノ・カネの交流はいずれ回復に向かうだろう。しかし、日中双方の関係者の心に残った傷跡はそう簡単には癒えない。
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