NB online Special:創造力と想像力を鍛え上げるグローバル時代の人材競争力 株式会社インテージ 代表取締役社長 田下 憲雄 氏

情報サービス産業は、ネットワーク社会の進展や顧客の要望の高度化によって、大きな変革が求められている。インテージは、マーケティングリサーチ国内No.1*の実力と、システムソリューションの経験を融合し、顧客の事業戦略に沿ったソリューションを提案する力を磨き上げることに余念がない。「創造力と想像力が持続的な成長のエンジン」と語る田下憲雄社長に、変化の激しい時代、かつ事業をグローバル展開する時代の人材戦略を聞いた。

*「2006年度マーケティングリサーチ売り上げ」で国内No.1
 【出典:アメリカマーケティング協会(AMA)発行 Marketing News誌 2007.8,15号】


――企業が求める人材は、時代の変化や事業変革などによって変わりますが、貴社の理想の社員像となると…。

 たまたま今年の「年頭メッセージ」で、会社が必要としているのは、次の3つの種類の人材だと話しました。まず「既に行っている業務をより上手に行える人」が必要です。そうでなければ、事業を継続できませんからね。当社ではそのためのプレイングスキルやマネジメントスキルを、人事考課のためのコンピテンシー評価に取り入れ、高い業績を上げている社員の行動特性を標準化しています。ただし、こういう人材だけでは、持続的な成長は保証されません。

 2番目に、新しいアイデアや新技術を創出するクリエーティブな能力を持つ「発明家」が必要です。最後に、こうしたアイデアや技術を他の経営資源と結合することによって事業化できるイマジネーション豊かな「起業家」が必要になります。私はこれからのグローバルな競争力の源泉は「創造力と想像力」だと考えています。ただ、これらはプレイングスキルやマネジメントスキルのように、研修プログラムを充実させれば身につくというものでもありません。かといって、天才の登場を待っているわけにもいかない。どうすれば発明家や起業家を確保し、育成できるかが最大の課題です。

リサーチャーとシステムエンジニア スキルセットの変革

――マーケティングリサーチ会社として、今、お客様から強く求められていることは…。

 世界に目を向けると、リサーチ業界では「ビジネスモデルの収斂」ということが言われています。つまり、リサーチ会社は調査結果を報告すればいいという時代は終わり、もっとお客様のビジネスにコミットして、インサイトを提供し、戦略を提案するビジネスパートナーとしての役割が求められるようになりました。戦略の実行のためにはITが不可欠な要素なので、リサーチ会社とIT戦略のコンサル会社のビジネスモデルが接近し始めたのです。コンサル会社にとっては、逆にデータをベースにした戦略提案でなければ、説得力を持たないですからね。

 つまり、顧客の期待に応えるためには、ITの知識や技術、ビジネススキルはもちろん、データのハンドリング能力、分析能力、システム化能力、これらを統合したコンサルティング能力が必要とされます。そのために、業界を超えた人材獲得競争や企業の合従連衡が始まっており、私は「リサーチャーやシステムエンジニアのスキルセットを変えよう」と言っています。


フリーアドレスシステムを導入するなど、最新のITインフラを駆使したコミュニケーション環境を構築。「お客様起点」の共創空間で、自由なコラボレーション環境を実現した

 

顧客と競合は待ってくれない 経営者は社員と危機感を共有

――そのようなビジネスモデルの変革を実現するために、どのような取り組みをされているのでしょうか。

 まず社員に、「変わらなければ」という変革意識を浸透させることが肝心です。そこで、2005年に組織を「事業部制」から「本部制」に変更しました。これまでの調査、システムという事業部制から、営業、ソリューション、テクノロジーという機能別の組織編成となったことで、社員の交流も活発化し、リサーチ、データ分析、システムを組み合わせた「融合ソリューション」としてお客様に提案できるようになりました。

 本部制に変わったからこそのいい例があります。多くの企業は自社の顧客情報を持っていますが、それだけでは他社のユーザーが「なぜ自社の商品を使用してくれないのか」は把握できません。そのためには、マーケットの全体像を把握し、自社の強み・弱みを浮き彫りにする必要があります。そうしなければ、有効なプロモーションも打ち出せません。

 そこで当社は、CRMとリサーチとを組み合わせて提案し、リサーチとシステムに精通した人材をうまく融合させることで、それを実現しました。本部制になり、プロジェクトごとにメンバーを編成してお客様に提案する、これが新しいスタイルだということを社員が自覚したことによる効果が確実に表れています。さらに、本社を東京・秋葉原に移転させたことで、異業種から多様な人材が集まるようになったという効果も大きいですね。

――理想を語るとともに、組織を変え、事業所移転をしたからこそできた変革ですが、お客様の反応は…。

 私は売り上げや利益という業績数字は、顧客満足や競争優位の結果だと考えています。お客様に提案が受け入れられた、つまりインテージを選択していただいた結果ですから、手応えは感じています。ところが、お客様満足度調査の結果と業績との相関はそんなに高くありません。新しい提案やサービスレベルの向上によって、お客様の期待も高くなり、従来と同じ水準では満足していただけなくなるからです。一方、品質問題が発生すれば、顧客からの信頼は一気に失われる。「顧客と競合は待ってくれない」というのが正しい認識で、危機感を失えば、あっという間に見放されることになります。

 それと同じことが、社員についても言えます。職場環境が整い、労働条件がよくなれば当たり前と感じるレベルが上がり、会社への期待も高くなります。やはり「社員も待ってくれない」。経営者が危機感を持ち続け、それを社員と共有することが重要ですね。

女性も外国人も分け隔てせず 定着した幹部職応募制度

――田下社長が社長に就任されたのは2000年ですが、自由闊達な社風は受け継いできたものなのですか。

 企業文化ですから、長い歴史の中で育まれたものであり、簡単には変わりませんし、マネをすることも難しいかもしれません。例えば、自薦による幹部職登用制度は、自由を1つの価値として実現しようとする企業風土の表れの1つと捉えています。世間では「管理職になりたくない」という社員が増えていると聞きますが、当社の社員は自分からよく手を挙げます。今年度は例年に比べて多く、70人以上が応募しました。

――企業にとって女性の活用は重要課題の1つであり、さらに外国人の活用も…という時代になりそうです。

 当社の場合、女性だからといって分け隔てはありません。社員の約3分の1が女性ですし、若い層では半数を占めています。お客様の多くが消費財メーカーであるだけに、女性の視点は不可欠であり、女性の戦力化は必然でもあります。ちなみに、今年度の幹部職登用制度の合格者も約3割が女性でした。部長クラスの5人を含め、女性幹部は約1割ですが、年々その比率は上がっています。外国人に関しても同様で、採用に国籍は関係ありません。本社だけで見ると、中国人をはじめ外国人は20人以上、全体の約2%になります。勤続20年以上、幹部職で活躍している女性の外国人社員もいますよ。

「情報立国」に不可欠なのは 工数の対価でなく価値の評価

――その一方、日本のシステム産業は人気業種ではなくなっています。その原因はどこにあるのでしょうか。

 日本経済は「情報立国」で国際競争力を高めるべきなのに、情報産業の構造が専門性による競争ではなく、工数提供の価格競争に陥ってしまい、産業としての魅力がなくなっていることが最大の原因です。経済産業省も構造改革の必要性を強調していますね。私は日本マーケティング・リサーチ協会の会長として日中交流を積極的に進めていますが、中国からは産学官が一体となって、リサーチ産業や情報産業を育てようという熱気が伝わってきます。日本も国策として、情報の価値を評価し、創造できる人材の育成に早急に取り組むべきです。

 当社は2001年の社名変更以来、事業ビジョンとして「インテリジェンス・プロバイダー」という言葉を掲げ、ビジネスモデルの転換に取り組んできました。工数提供の対価を求めるのではなく、情報の価値を価格で表現できるビジネスモデルを追求していきたいと考えています。インテージは「インテリジェンス・プロバイダー」として、想像力を豊かにして、知を創造し、知を具現化できる人材を輩出できる会社でありたいと思っています。

さらなる女性活用へ「知花プロジェクト」 社員満足度調査で社内の風通しよく  酒井和子氏 人事企画部 部長

 女性のキャリアアップやワークライフバランスの支援を目的に、2007年12月、グループ企業を含む女性19人で構成する「知花プロジェクト」を立ち上げました。出産休暇や育児休暇はかなり以前に取り入れ、活用されています。ただ女性の場合、人生の選択肢が多い分、特に30代になるとキャリアアップについて消極的になってしまい、伸びる余地は十分にあるのに、例えば幹部職の応募でも「自分には無理」とあきらめてしまう人もいます。プロジェクトを通じて、女性社員のキャリアアップに対する意識の底上げができればと考えています。女性のネットワーキングを支援する「J-Win」へも参加し、他社の好事例を参考にしながら当社らしい支援策を考案するつもりです。

 また、社名変更をした2001年から毎年、社員の満足度調査「インターナル・マーケティング・リサーチ」を実施しています。会社に対するイメージ、人事考課、仕事のやりがいなどについてアンケートし、回収率はほぼ100%です。調査結果は、事業計画で「組織の満足度を20%上げる」のような具体的な目標作りにも活用されています。業績が好調な部署では、多少の不満はあっても組織としての満足度は高く出る傾向がありますが、個人として成長できているかとなると、十分ではないようです。社員が生き生きと働けて、少しでも自分の成長が実感できる会社になるよう人材戦略に取り組んでいきます。(談)

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