INTERVIEW - 株式会社インテージ 代表取締役社長 田下憲雄 氏 「変えてはいけないことを知っているのですべてを変えることができる」 変化の本質を見極め「創造的破壊」を実践

インターネットの普及によって、情報サービス業界のビジネスモデルは大きく変わった。マーケティングリサーチで国内トップ*のインテージは、顧客企業の成長を支援するソリューション提案を行うことで、自らの存在意義を強化している。消費低迷の時代にあって、製販連携による情報プラットフォーム構築で店頭活性化を目指すことはその一例だ。間断なき「創造的破壊」を原動力とするインテージの経営戦略を、田下憲雄社長に聞いた。 *「2007年度マーケティングリサーチ売り上げ」で国内No.1【出典:アメリカマーケティング協会(AMA)発行 Marketing News 誌 2008.8.15号】

──IT(情報技術)が急速に普及し、経営の根幹をなすようになりました。リサーチの分野でも大きな変化があったのではないでしょうか。

 1960年の創業以来、当社が成長を続けてこられたのは、お客様企業のマーケティング活動とビジネスプロセスの最適化に貢献できたからです。POSシステムを利用して、SCI(全国消費世帯パネル調査)やSRI(全国小売店パネル調査)など、市場動向を追跡する業界標準のサービスを構築したことが典型です。カスタムリサーチの分野でも、新しい調査手法、分析手法の開発に取り組み、成果を上げています。対象業界は食品、日用雑貨品、化粧品、医薬品、自動車、金融、サービスなど広い分野に及んでいます。

 最近は、従来の訪問調査や郵送調査に代わって、インターネット調査がメインの手法になりつつあります。その結果、従来は1カ月かかっていた調査が1 〜2週間で完了し、価格も2分の1、3分の1が当たり前になるなど、ドラスチックな変化が起きました。当社に限らず、伝統的な調査会社にとってはインターネット調査への対応は難しいテーマでした。価格、スピードだけではなく、あらゆる業務プロセスで、これまでのパラダイムからの転換が必要とされましたからね。

速く、安く、頻度もアップ、ネット調査で新リサーチ体系提案

──急激な価格低下はお客様企業にはうれしい話ですが、業界にも大きな影響があったのでしょうね。

 単価が下がれば売り上げも低下し、市場も縮小すると思われるでしょう。しかし、そうはなりませんでした。理由の第1は、費用がかかることを理由に調査をやらなかった会社がネットリサーチを使い始めたことで、お客様が増えたからです。また、既存のお客様には調査予算があるわけで、よりよい精度を求めてサンプル数を増やしたり、調査の回数を増やしたりしたので、調査予算の総額自体に大きな変化はありませんでした。業界全体で見れば、新規参入も数多くあり、大いに活性化したと思います。

──ネット調査によって業務プロセスはどのように変わりましたか。またビジネスモデルへの影響はありましたか。

 リサーチ業界は、これまでは「工数提供型」のビジネスモデルで、収益確保がなかなか難しい状況がありました。それがネット調査の登場によって「価値提供型」のビジネスモデルへ転換するチャンスを迎えたと理解しています。お客様企業には商品の企画開発から販売動向の把握までいろいろなニーズがありますから、それに応えるために新しいリサーチ体系を提案しました。内部プロセスはITを駆使して効率化、自動化を推進し、リサーチャーはデータの読み取り・分析・コンサルティングといった専門性を必要とする工程に集中させています。最終的には課金モデルも変えなければいけないと考えています。

──そのためには、調査データの意味を読み取り、お客様企業の要望するソリューションを提示できる人材が重要になりますね。

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 リサーチャーの強みは、生活者に近いところに存在し、生活者を最もよく理解していることです。従来型の調査では、調査員の声や原票から調査対象者の息遣いが聞こえてきますが、ネット調査では回答者の顔は見えません。また、データはITで自動的に処理されるため、それですべて完了するような錯覚に陥りがちです。ですから、IT化を進めると同時に、ネットの向こう側にいる生活者をよく理解するための仕掛けを持つこと、またそこから得られるデータを読み取るノウハウの強化がこれまで以上に重要になってきます。調査に限らず、リアルとバーチャルのコミュニケーションは常にセットで考えないと、とんでもない誤りを犯す可能性があると思います。

 この業界では、インサイト(洞察、知見)という言葉があります。調査手法が変わっても、「誰が最もよく生活者を理解しているのか」ということがクリティカルポイントです。それをさらにお客様の「アクショナブルインサイト」として提案していくことが、プロフェッショナルの条件です。

製販で情報を共有化し、店頭の活性化に役立てる

──インテージは中国に続いてタイに進出、第2の海外拠点を設けましたね。今後、海外展開はどのように進めるお考えでしょうか。

 少子高齢化の時代を迎えて、国内市場は頭打ちです。どの企業でも海外事業の積極化を図っています。1999年の中国進出は、日系企業の中国におけるリサーチの受け皿を意図してのことでした。苦労はありましたが、順調に業容を拡大しています。今後の事業拡大のために最も重要な課題は、マネジメントの現地化だと考えています。中国人が、当社のDNAとグローバルな要求を理解したうえで、自立的に事業の推進を考えるようにならなければ、本当に中国事業を展開していることにはならないでしょう。

 さらに今年の7月、タイに合弁会社を設立しました。既に日系企業の集積があるということだけではなく、ここを拠点に、東南アジアでの事業展開を加速するためです。タイの会社が順調に立ち上がれば、アジア全体をカバーする「インテージ・アジア構想」につなげていきたいと思います。

──製販連携による「情報プラットフォームの構築」を戦略課題に掲げていますね。これは、何を狙ってのことなのですか。

 製造・配送・販売による店頭活性化のためのコラボレーションは、日本にPOSシステムが普及し始めた頃からのテーマです。既に20年以上の歴史があり、それぞれの企業で担当者も2代目、3代目と交代してきました。残念ながら社会システムとしては未成熟で、世代交代によって企業内のノウハウの蓄積も十分とは言えません。海外からは新しい概念が次々と導入されてきていますが、「行きつ戻りつ」というのが実態ではないでしょうか。

 当社はこうした積年の課題を解決するために「製販コラボレーション・プラットフォーム」を提案しています。私たちの定義するプラットフォームとは「情報の共有化によって異なる組織のコラボレーションを促進するための基盤」のことです。

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 私はプラットフォームを成立させるための条件として、次の4つの項目を挙げています。データ基盤の拡大、ソリューションの体系化、ITによるブレークスルー、社会的合意の形成──です。それぞれ難しい課題がありますが、最も難しいのは「社会的合意の形成」です。1つは情報を保有することによって競争するのではなく、共有することによって、そのコストをシェアし、情報の活用場面で競争するという新しいパラダイムの確立です。もう1つは、コラボレーションにおける原則です。メーカーと小売業の利益は100%一致するわけではありません。「店と商品が消費者の支持を得る」という一点において、WIN-WIN の関係を確立することが重要です。「Consumer Centric」(消費者中心)を、コラボレーションの原則として確立する必要があります。

 そのために当社は米国のIRI(Information Resources, Inc.)と戦略的な提携を推進するための協議を開始しました。米国の事例も参考にしながら、日本版コラボレーション・プラットフォームを実現したいと考えています。

創造的破壊への挑戦それが「強い会社」の条件

──今は原油価格の乱高下や世界的な金融危機など、経営環境が大きく揺らいでいますが、「強い会社」になるには何が必要でしょうか。

 昨今の金融危機を目の当たりにしますと、ますます価値を創造することはどういうことなのかと考えますね。企業はその専門性によって、社会的分業の一端を担い、社会の発展に貢献するために存在しています。専門性によって新しい価値を創造し、生活者を豊かにする、社会の役に立つということにどれだけこだわりを持っているかということが、本当に「強い会社」の第1の条件でしょう。

 もう1つは、やはり変化への対応力ですね。環境の変化は、ピンチであると同時にチャンスでもあります。「強い会社」であるためには、変化の本質を見極め、それを先取りできなければダメですね。

 イノベーションという言葉は、日本では技術革新と訳されることが多いようですが、中国では「創新」という言葉を使っています。新しい価値を創造し、古い秩序を破壊しながら社会が発展すること、つまり「創造的破壊」が本来の意味ですから、中国語の方が訳語としてはふさわしいと思います。

 事業を創造するリーダーには、想像力と創造力、別の言葉に置き換えれば、大局観と本質直観力が要求されます。そういう人材を確保し、育成することができる環境、風土、文化を持っている会社は強いですね。

 「変えてはいけないことを知っているので、すべてを変えることができる」

 当社はそうありたいと思っていますが、難しい課題です。インテージはこれからも「インテリジェンス・プロバイダー」として、新しい情報価値の創造に挑戦し続けます。


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