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人気イラストレーターにして気鋭のビール専門家。最近はテイスティングセミナーの講師、ビール専門誌の編集長を務めるなど、マルチな活躍ぶりで注目される藤原ヒロユキさん。ここ数年はビールがらみの取材やイベントで地方に出張する機会も増えたが、仕事はあくまでも東京が中心だ。にもかかわらず、ひょんなことから京都府与謝郡の里山に家をつくることになった。今から2年前のことである。
  「ヨメの実家があちらにありまして。築70年くらいの古い民家ですが、丹後ちりめんの作業場だったスペースがそっくり物置になっているのを見て、『あ、ここを住居兼アトリエにつくり替えたら面白いかな』と。最初はほんの思いつきでした」
  家づくりの何たるかについて、予備知識があったわけではない。そもそも「家を持つ」ということに関して極めて執着が薄かったという。敢えて住まいについて条件を挙げるとすれば、「職住近接」であることぐらい。
  まず、これまでの人生で電車通勤というものを経験したことがなく、イラストを描く仕事柄、パッとひらめいたら机に向かえる環境でないと厳しい。煮詰まったときは、料理でもつくって気分転換を図りたい。となると、自宅と仕事場は近ければ近いほどいいわけで、「この一点さえクリアできれば賃貸でも一向にかまわない。そのくらいアバウトな住宅観しか持っていなかった」と振り返る。

 

さて、そんな氏が初めての家づくりを敢行するにあたり、地元の工務店に出した注文も当初は極めてアバウトなものだった。いわく、「呼吸する家がいい」。壁は土のまま、土間もそのまま。サッシも使わない。とにかく元の民家のしつらえをなるべく多く生かすように依頼した。
  そんな注文を聞いた工務店側は、すっかり頭を抱えてしまった。こちらで家を“直す”と言えば、それはすなわち現代風につくり替えることにほかならないからだ。
  「今考えると、工務店がとまどったのも無理はないですね。向こうに住んでいる人は、昔の民家の不便さを生活実感として知っているわけですから。冬は雪が多い土地柄なのに、機密性が低くて寒かったり、メンテナンスの手間がかかったりと、とにかく現代の高機能住宅の逆をいく条件がそろっている。しかし、それでも都会育ちだから見える田舎の民家のよさについて、まず理解してもらうまでが一仕事でした」
  古民家の写真を集めた書籍やデザイン本でイメージを伝えつつ、粘り強く説得を続け、ようやく駆体部分の改修が始まるころには半年近くが経過していた。天井の太い梁(はり)はそのまま残し、竹で組んだ筋交いの上に土壁を塗り直す。その土はワラを入れて半年寝かせ、再生させたもの。現代建築に慣れた工務店にとって、それは試行錯誤の連続だったようだ。
  工事が進むと、家そのものに対する価値観の違いも浮上した。工務店からは堅固でいかめしげな床板や意匠を凝らした欄間(らんま)など、凝ったプランが次々に提案される。しかもどれも高価なものばかり。
  理由を尋ねると、「この規模の家には、このくらいのものを使わないと釣り合いがとれない」とキッパリ返される。今度は建て主が頭を抱える番だった。
  かようなハードルは介在したものの、「大筋の部分では妻の両親や工務店の意見を取り入れることが多かった」と藤原さんは言う。「風がどちらの方向から吹き込むか、雪がどこにたまるか。地元の風土を知り尽くした人の説得性にはかないません。やはり、出来上がってみて、地元の工務店と相談しながらつくったことがとてもよかったですね」。



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