NBonline SPECIAL | パイオニア
Pioneer Speakers History
第6回 音・音楽啓発活動
左から)横田 堯氏、西川和男氏、山下 桜氏、福田 薫氏。
様々な活動で音楽の感動とパイオニア スピリットを伝えている(『松本記念音楽迎賓館』内ホールにて)

◆70年前、スピーカーづくりからパイオニアの歴史が始まった。
◆モノづくりへの挑戦と品質への徹底したこだわり、
 そして音楽の感動をより多くの人々に提供するという創業者・故 松本 望の理念は、
 長い年月を経ても、企業規模が拡大しても、今も変わらずに息づいている。

interview・text by Satoshi Shirako
photo(person) by Shinobu Takase


 東京・世田谷の閑静な住宅街――。茶室や木々、野の花、そして池を配した京風庭園からは、小鳥のさえずりが聞こえてくる。高台からの眺望も見事だ。
 ここはパイオニアの創業者・松本 望の居宅だったが、1999年、音楽鑑賞の環境を整えるため、松本 望が私産を投じた財団法人音楽鑑賞教育振興会に、遺族の手で寄贈された。そして2001年から、音楽を楽しむための『松本記念音楽迎賓館』として一般にも広く利用されている。

 館内には約50人収容の演奏会ができるホールが2つあり、パイプオルガンやチェンバロ、グランドピアノなどが常設されている。SPレコードを聴くことができるサロンがあるほか、創業者が研究開発に明け暮れた工作室も当時のままに再現されている。

松本記念音楽迎賓館
『松本記念音楽迎賓館』の敷地は約1000坪。創業者の遺志を継ぎ、多くの人々に音や音楽の感動を与えている
 楽器を弾いたり、発表会を開いたりするなど、自由に音楽を楽しめる場が少なくなっている中、記念館では毎週末、何らかの演奏会の予約が入っており、中にはここで結婚式を挙げる人もいるという。

 外部に一般開放する一方、記念館は、パイオニア社員の「音と音楽の文化向上」を目指す『パイオニア・オーディオ・ルネサンス』活動の拠点にもなっている。

 日本初のHi-Fiダイナミックスピーカー『A-8』を世に送り出した70年前の原点に立ち返り、再びオーディオを重要事業として位置付けるためには、企画や開発に関わるすべての人が“良い”音を聴き、センスや感性を磨いていく必要がある。「今年8月の週末には演奏会を計10回開催し、延べ400人以上の社員や家族が参加した。記念館の利用者でもあるスタニスラフ ブーニン氏が記念館の活動の趣旨を理解し、快く社員の前でピアノを演奏してくれた」。オーディオ・ルネサンス活動の推進役の1人でもある西川和男氏はこう振り返る。
 演奏会は様々な趣向を凝らして行われる。時には演奏会終了後、聴いていた子どもたちに自由に楽器を触らせることもある。小さい頃から音楽に親しみを持ってもらうためだ。

 社内での音楽活動も盛んだ。社員でもあり、パイオニア交響楽団団長の福田 薫氏は、「約80人の団員がいるが、会社の規模から考えて、全パートを社員でカバーできるのは驚き」と打ち明ける。
 また、約140人が活動するパイオニア合唱団の前団長・横田 堯氏も、「社員やOB、そしてその家族が活動を支えてくれ、年1回の大きな演奏の中には、日本フィルハーモニー交響楽団やロンドンフィルハーモニー交響楽団との共演の機会もある」と話す。

創業者の想いを継承した、音楽体験の場『身体で聴こう音楽会』

 創業者の理念は、パイオニアの社会貢献活動である『身体で聴こう音楽会』にも受け継がれている。これは、聴覚に障がいを持っている人たち(病気や事故などで中途失聴となった人)に、“もう一度音楽を楽しんでいただきたい”という趣旨で、92年にスタートした「音楽体験の場」である。

 主な活動は3つ。パイオニア本社1階のロビーで開催する定期コンサート、日本フィルハーモニー交響楽団などが主催する外部コンサートへの招待、そして聴覚障がい者団体や関連団体のコンサートに対する機材の貸与および運営のサポートである。
 「最近では、月1回の定期コンサートに『ぜひ演奏をしたい』という出演の申し出も多い。クラシックをはじめ、ハワイアンや邦楽、ブラスバンドなど、様々なジャンルの音楽を楽しんでいただいている。外部コンサートや機材貸与を含めると、昨年の開催数は36回に上った」。02年に4代目運営事務局に着任した山下 桜氏は、活動についてこう語る。

 こうしたコンサートで“活躍”するのが、骨伝導を利用した体感音響システムだ。音楽は耳だけで聴くものではなく、身体全体で感じるもの。このシステムを利用すれば、聴覚障がいの人でも音楽やリズムを楽しめるのではないか――。当時会長だった松本 望はこう考え、オーディオ機器として開発・発売したボディソニックを聴覚障がい者向けに改良した。「このシステムに座っていただくことで、“身体”で音楽やリズムを感じてもらっている」(山下氏)。

 体感音響システムとともに、活動を支えるもう1つの大きな力は、パイオニア社員によるボランティアである。コンサート会場への機材の搬出入や設置、オペレーションなどに率先して参加している。「特に定期コンサートは、いつも20人程度の社員やその家族が手伝ってくれている。参加した聴覚障がいの方からは『このコンサートが楽しみで生きがいになっている』『あきらめていた音楽をもう一度楽しむことができた』といった声をいただき、それが私たちの喜びであり、また励みになっている」(山下氏)。

 02年からは海外にも活動の場を広げている。こうした継続的かつ独自性のある活動が認められ、『身体で聴こう音楽会』は、社団法人企業メセナ協議会が実施する「メセナアワード2007」において、メセナ大賞部門体感音響賞を受賞した。山下氏は、「最近は認知度が上がり、様々な聴覚障がい者団体やろう学校などからのオファーが増えている。この活動を国内外に発展・継続させ、しっかりとその地に根を下ろしていきたい」と意気込む。

 一方、この記念館を舞台に“語り部”と呼ばれる社員も活躍している。「例えば新入社員に対して、あるいは記念館への来訪者に対して、会社の歴史、創業者の理念や想い、製品などについて、自分の経験や知識を伝える。パイオニアの精神を残したい、広く伝えたいという人たちが、これまでに13人認定されている」。自身、“語り部004号”でもある西川氏はこう話す。
 横田氏は、「創業者が築き上げた人間関係が、現在の活動の源。温かい人柄のおかげで現在の良い仕事や様々な活動につながっていると、あらためて実感する」と打ち明ける。

 様々な分野に果敢に挑み、事業領域を拡大・発展させてきたパイオニアは来年、創業70周年を迎える。社員が増え、企業規模が拡大しても、「音楽の感動を、あまねく、多くの人々に」という創業者の理念は社員1人ひとりに息づいている。そしてそれは、これからも変わることはないだろう。


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