産業立地特集
2つの「促進法」が目指すのは国際競争力強化と新しい地場産業振興
これからの自治体は「工場誘致」だけでなく「+α」が必要に
2000年過ぎから製造業の「国内回帰」が鮮明になったこともあり、自治体による企業誘致はますます熱を帯びてきた。こうした動きを後押ししているのが、企業立地促進法など政府による地域振興政策である。いま、先進自治体はどのような取り組みを推進しているのか。そして、どのような地域活性化を目指すべきか。この分野において学問的な立場から数々の提言を行ってきた東京大学の大西隆教授に、地域振興の現在を概観しつつ未来を展望してもらった。
製造業よりもサービス業が大きな雇用効果をもたらす
東京大学先端科学技術研究センター教授
大西 隆
東京大学工学部卒業、同大学院修了、工学博士。1988年東京大学工学部助教授等を経て、1998年より現職。国土審議会委員、産業構造審議会委員、社団法人日本地域開発センター理事長などを歴任。専門分野は、国土計画、地域開発、都市開発。


――2007年、企業立地促進法と中小企業地域資源活用促進法が相次いで成立しました。その背景には、どのような社会変化があるのでしょうか。

大西:歴史的には、高度成長期の新産業都市建設促進法や1980年代のテクノポリス法など、地域振興のための法律はいくつもありました。90年代後半から2000年にかけてこの流れが変化し、法律の枠組みで地域振興を推進するという考え方は退潮しました。しかし、近年は地域間格差の拡大を問題視する声が高まっています。その格差を是正するためには、やはり地域振興的な法律が必要ということになったのです。

ただし、2つの法律に代表される新しい地域振興政策には、かつてのものと大きな違いがあります。80年代までの法律が地方を対象としていたのに対して、最近の法律は大都市圏も適用範囲としています。その背景にあるのは、グローバル競争の激化です。適用範囲が狭すぎると、企業の側は「では、中国に進出します」というでしょう。企業立地については、第1に日本は他の国々との競争を勝ち抜く必要があり、第2に自治体は国内各地の競争がある。そんな構図です。

――こうした法律に対する各自治体の受け止め方はどうでしょうか。

立地動向は、件数・面積で2002年を底に持ち直しV字型回復にある。国内回帰の動きは鮮明だ
出典:2007年経済産業省工業立地動向調査より

大西:企業立地促進法を例にとると、神奈川県や大阪府、兵庫県といった大都市圏も含めて、多くの自治体が手を挙げており、関係者の期待は大きいようです。90年代は「失われた10年」といわれますが、企業立地の観点から見ると海外流出の時代でした。それが2000年過ぎから変わり始めて、国内回帰の傾向がはっきりしてきます(図1)。こうした現実の動きがあるから、地域振興政策がリアリティを持って受け止められたのでしょう。

――企業立地というと工場誘致が連想されますが、一連の政策は主に製造業を対象としたものなのでしょうか。

大西:そういう面は否定できませんが、以前と比べると対象領域の幅は広がっています。農業との連携を強めて農産物加工などの産業を育成しようとしている自治体もありますし、沖縄県などはコールセンター誘致に積極的に取り組んでいます。沖縄には50以上のコールセンターが立地しており、オペレーターの質も高い。やる気のあるオペレーターはいくつも資格を取得し、次第に難しい業務をこなすようになったそうです。人材が高度化すれば、企業はより重要な業務を沖縄のコールセンターに任せるようになる。そんな好循環が生まれつつあります。

工場誘致はこれからも花形であり続けると思いますが、雇用に注目すると、コールセンターなどのサービス業のほうが効果は大きいのです。特に、最近の工場は省力化が進んでいます。固定資産税などの税収もあるので、自治体にとって工場は魅力的ですが、雇用はそれ以上に重要なポイントです。その意味で、政策のカバーエリアをもっと広げる必要があるでしょう。


誘致後のフォローがさらなる誘致を呼ぶ

――企業が立地を決める上で、どのような要素が重要になるのでしょうか。

大西:土地や水などの「土地条件」と「労働力」、そして「交通インフラ」という3点セットが基本です。特に地方に行けば広い土地はありますが、それがすぐ使える状態になっているかどうか。過大な先行投資は後の負担が大きくなりますが、自治体側が企業を誘致したければ、ある程度すぐに使える土地を用意しておく必要があるでしょう。

国内で立地場所を選定する際に重視する点は、地域資源(用地・労働力等)、既設拠点等との近接性などが上位だ
出典:平成16年度ものづくり基盤技術の振興施策

労働力については、需要と供給をマッチングする機能が重要です。地元の工業高校や高専などからどのような人たちが卒業し、どこに就職しているのか。そうした情報を蓄積して、何か話があったときには上手につないであげる。そんな機能が自治体には求められています。3つ目の交通条件は、全国的にかなり揃ってきました。ただ、インターチェンジから遠い場所であれば、投資が必要になるケースもあるかもしれません(図2)。

――その基本条件以外の分野では、企業立地をサポートする政策として、大西教授はどのような動きに注目していますか。

大西:最近は、免税を含めたインセンティブを企業に与えるケースが増えています。シャープの亀山工場に対する三重県の支援は、その先駆けといえるでしょう。こうした直接的なメリットは、企業が立地を検討する上で大きな要素になります。

また、佐賀県の誘致企業永続支援員制度も、多くの自治体が参考にしているようです。これは誘致企業が指名した職員がずっとその企業の窓口役となり、部署の異動後も役所の中で手続き案内をしたり、困ったときの相談に乗るという仕組み。行政の許認可を一元化するワンストップサービスは理想的かもしれませんが、簡単ではありません。企業にとっては、このような“道案内サービス”だけでも安心できるし、様々な手続きをスムーズに行えるというメリットは大きいと思います。

――単に誘致して終わりではなく、継続的なサポートが重要ですね。

大西:その通りです。自治体が誘致企業と長く付き合いたいのなら、普段からのサポートが欠かせません。どこまでやるべきかはそれぞれですが「この自治体は親身になって相談に乗ってくれる」という評判が立てば、それは次の誘致にもつながります。工場進出などを検討している企業は、「行政のサポートはどうか」と一足先に進出している別の企業に話を聞くはずですからね。

――誘致企業を上手にサポートしている自治体もあれば、そうでない自治体もあります。自治体担当者には、独特のノウハウがあるのでしょうね。

大西:泥臭いようですが、必要なのは熱意と誠実さ、専門知識でしょうか。企業との窓口役なので、何かと誘惑の多いポジション。その意味では、清廉潔白な人柄も重要な条件です。加えて、独特の嗅覚も求められます。

多くの企業誘致を手掛けたベテラン職員に聞いた話ですが、企業業績やその他の情報を集めて「そろそろ拡張が必要」と判断すれば、その企業のトップに接触して口説くのだそうです。おそらく、新聞の読み方も他の人とは違うのでしょう。そうしたノウハウを個人的なネットワークで広めるというケースはありますが、自治体間の競争がありますから、みんなで共有するというのは難しいでしょうね。


外から誘致するだけでなく内発的な産業振興への目配りを

――せっかく誘致した企業が、何年か後に撤退することもあります。それぞれの自治体は、企業誘致以外の産業振興も考える必要がありそうですね。

大西:地元の芽をいかに育てるか。近年、地場産業の淘汰が進んだこともあって、将来が見えにくくなっている地域も増えています。こうした状況を打ち破るには、新しい地場産業を興すという気持ちで取り組む必要があるでしょう。製造業に国内回帰の傾向が見られるとはいえ、これが長期的に続くかどうかは誰にも分かりません。自治体は誘致型に頼り過ぎるのではなく、内発的な産業振興にもっと目配りする必要があるように思います。

その意味で私が期待しているのは、中小企業地域資源活用促進法です。地域の強みとなる資源を掘り起こして付加価値を高めようという、いわば土着的な地域振興策。このように、地元の中小企業を盛り立てていく仕組みは大事です。ものづくりだけでなく、流通やサービスとの連携なども工夫する必要があるでしょう。

――流通やサービス業との連携というと、どのような例がありますか。

大西:幹線道路沿いに設置された「道の駅」の一部で行われている取り組みは、農業と流通・サービスとの連携の事例です。日本中にある道の駅は、もともとドライバーの休憩所のようなものでした。そのうち地元農家が農産物を販売するようになり、それが評判を呼んで、野菜などを目当てに訪れる人も出てきた。これが相当の売り上げになることもあり、農家の意識を変えつつあります。お金になる作物をいかにつくるかを、真剣に考えるようになったのです。消費者と直に接することで包装の仕方などのノウハウも蓄積されるし、何よりも市場の動きに敏感になった。小さなことかもしれませんが、非常に重要な変化だと思います。

道の駅は産直という形ですが、商業やサービス業の事業者とのコラボレーションも考えられます。ものづくりに携わる農家や製造業の現場では、どうしてもマーケットからの声を聞き取りにくい面があります。それを補完してくれる人たちと連携できれば、新しい展開も期待できるでしょう。

――地元の芽を育てるという観点では、地元の大学とか研究機関との連携も考える必要がありそうですね。

大西:研究者グループと地元企業のネットワークからは、様々なアイデアが生まれる可能性があります。ただ、研究者または研究内容は、あまり地域性とは関係のないもの。優れた研究であれば、世界中から買いにきます。一方の研究者は地域の内外を問わず、研究成果を使ってもらいたい。別の観点ですが、現在は外国人の研究者も増えています。これからは、地域で研究開発をしながら国際化を図るという視点も必要ではないでしょうか。

――地域が持つべき国際的な視点というと、具体的にはどのようなものですか。

大西:第1に人材の面。外国から訪れた留学生や研究者は、以前であれば一定期間が終われば出身国に戻るのが普通でした。しかし、最近は「日本にとどまって働きたい」という外国人が増えています。そう思う人たちが活躍できる分野を、今後は増やしていく必要があると思います。

第2に、日本で勉強や研究をした経験を持つ外国人とのネットワークをいかに活用するか。いま、中国をはじめとするアジア諸国は急速な成長を遂げつつあります。それに伴い、消費市場としての魅力も高まっています。ネットワークを通じて工業製品だけでなく、農産物なども含めた幅広い分野での輸出や人材交流が期待できるでしょう。

――外資系企業の誘致という国際化もありますね。

大西:先進諸国に比べて、外国から日本への投資は非常に少ない。これは非常に大きな課題ですが、神戸や横浜、仙台などの外資誘致事例も報告されています。自治体は国内企業だけを狙うのではなく、広く外資も視野に入れた産業振興を考えるべきでしょう。

――日本企業が海外に出ていくのと同じように、外資系企業も他国に進出します。日本企業の海外流出を心配するだけではなく、グローバル企業を取りに行く「攻め」の発想も大事ですね。




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