NBonline Special:産業立地特集 企業の用地取得意欲は底堅い 企業立地促進法で広がる 企業の選択肢 企業立地の動向を見続け、地域の産業振興に尽力してきたのが、産業立地研究所の真野博司社長だ。2002年以来、5年連続で順調に増えてきた工場立地件数に、昨年6月に施行した企業立地促進法は、景気の先行き不透明感が増す中でどれだけの効果をもたらすのか。真野社長に企業立地の現状や今後の見通し、自治体が企業誘致競争に勝ち抜くための条件などについて話を聞いた。

産業立地研究所 代表取締役社長 真野 博司氏
真野博司(まの・ひろたか)氏 財団法人日本立地センター調査員、参与を経て1970 年産業立地研究所を設立、代表取締役社長、所長に就任、現在に至る。国土審議会、産業構造審議会、中小企業近代化審議会、工業立地及び工業用水審議会の専門委員や国、自治体の委員会委員、独ブレーメン州経済振興公社駐日代表部顧問などを歴任。専門分野は産業立地、産業振興、地域開発

―― まず、最近の企業の立地動向について説明してください。

真野 1967年から経済産業省が毎年、実施している工場立地動向調査によると立地件数、立地面積はいずれも2002年に過去最低を記録しました。当時は中国に製造拠点を築く動きが活発となり、製造業の国内空洞化が叫ばれていた時代です。

 しかし、立地件数、立地面積はこの年にボトムアウトし、いずれも07年まで5年連続で増加しています。景気回復と製造業の国内回帰の流れが鮮明になったことなどがその大きな要因です。

 全国で産業用地を販売する中小企業基盤整備機構でもここ3年で毎年140haを超える用地を販売していますし、自治体によっては工業団地が完売し、在庫がなくなるケースが見られるようになっています。

 ただ、地域別に見ると温度差はかなりあります。関東、東海、南東北や北九州では立地が活発ですが、そうでない地域も見られます。

目立つ臨海部の大型工場

―― 特に注目すべき動きはあるでしょうか。

真野 臨海部での大型工場が目立ってきていることですね。たとえば、ひたちなか市のコマツと日立建機、尼崎市のパナソニック、堺市のシャープ、苫小牧市のアイシン精機といった具合です。臨海部への立地件数は全体の15%程度で推移してきたのですが、特に大型工場は臨海部に向かう傾向があります。

 その理由はいくつかあります。まず、港湾に隣接するため、原材料を輸入し、製品を輸出しやすいという点。さらに陸路の使用を抑制できるので、CO2削減効果も期待できる。また陸路では、昼間に建機などの大型構造物を輸送することが制限されますが、海路ならその心配もないわけです。

 もうひとつの動きとしては、各地で産業集積が進んでいることですね。製造業の国内回帰の流れが加速する中で、こうした動きが顕在化し、経産省が進めてきた産業集積の促進を目指した産業クラスター計画とリンクする形で発展してきたと言えます。

 たとえば九州や東北では自動車の産業集積が進んでいますし、堺市に液晶パネルと太陽電池の新工場を建設するシャープは「21世紀型コンビナート」の名の下に、関連するインフラ設備や部材・装置メーカーの工場の誘致に動き出しています。

 また、電子機器、機械系機器の企業などが集積する東京都多摩地域と埼玉、神奈川県の一部の広域多摩地域では、産学官の連携強化により発展を続けています。

 興味深いのは沖縄県です。私は沖縄県の工業振興計画にかかわった経験がありますが、これまでは沖縄で製造業を盛んにするのは難しいのが現実でした。ところがここにきて、中城湾港の「特別自由貿易地域」に見られるように、ものづくり系企業の集積が進んでいます。

用地確保に動く企業は多い

―― 世界経済は急速に冷え込んでいますが、今後の国内立地の見通しはどうでしょうか。

真野 もちろん、企業立地は世界経済の影響を受けますが、私はそれほど悲観的な見方はしていません。自治体やゼネコンの人たちと、立地動向についてよく話をしますが、「昨年ほどではないにせよ、企業の用地取得意欲は底堅い」との声を耳にします。特に大都市圏での用地取得意欲は強いですね。そもそも不況の波をかぶって世界経済が今後、全部ダメになると考える経営者はいないでしょう。

 私は08年の立地件数はそれほど悪くならないと見ています。もっとも立地件数は土地の取得をベースに数えられるので、実際にすぐに工場が建つかどうかはわかりませんが、まずは用地を確保しておこうという企業は多いと考えます。国内では良質な用地が減っており、生産拠点が必要になってから用地の手配をしていたら、ビジネスチャンスを逃しかねません。

 国内立地のニーズが強いのは、高付加価値製品など国内で作った方が有利であるものは日本で作る、そうでないものは海外で作る、という適地適産の考えが企業の間に浸透していることが根本にあります。

 また、先ほど述べた各地で進む産業集積が国内立地を後押ししている面もあります。07年の工場立地動向調査によれば、海外立地と比較して、最終的に国内立地を選んだ企業の理由として、「関連企業への近接性」が最多でした。このことからもそれは推察できます。

―― 昨年6月に施行された企業立地促進法も大きな効果が期待されています。どのような感想をお持ちですか。

真野 国内の企業立地を国が税制や人材育成など様々な面で支援、後押しするこの法律は企業、自治体の双方に好評ですね。初年度に法の適用を都道府県に申請した企業は140件、投資額は1兆2266億円に上っており、出だしはいいようです。

 この法律は都道府県と市町村が基本計画を立て、国の同意を得ることが必要になりますが、9月段階で44道府県の126の基本計画が同意されています。これを総合すると企業立地目標は9000件弱、新規雇用創出目標は32万人強になります。

 基本計画が認められた地域が増えることは国内立地を目指す企業にとっては、選択肢が広がるメリットがありますが、企業誘致をめぐる自治体間の競争を激化させることになります。企業立地促進法で定められた優遇措置だけでは企業誘致の決め手にはなりにくくなるでしょうから。

企業のスピードの速さに対応せよ

―― その競争に勝つ条件とは、何でしょうか。

真野 まずは企業のスピードの速さに対応する、ということですね。企業は工場建設を決断したら、一刻も早い操業を目指すものです。一般に立地決定から操業開始まで必要な行政手続きは50以上ありますが、手続きの種類によって対応窓口が異なる自治体がいまだに数多くあります。窓口を一本化したワンストップサービスの実現は必須です。

 2つ目は、既に地域内に立地している企業を大切にすることです。同一地域に第二、第三の工場を建設する企業の例は少なくありません。新工場建設を他の地域に持っていかれないように、地域経済を支えている地元の企業には、“御用聞き”を怠らないことが肝心です。相互のコミュニケーション不足で、企業が他の地域に移転してしまうのを防げなかった、というのでは最悪でしょう。

 3つ目は用地の先行取得を視野に入れておくということです。繰り返しますが、企業の動きはとても速いです。最近の立地状況を見ると、他社所有の遊休地や工業団地の未分譲用地を取得するケースが目立ちます。企業は手っ取り早く拠点を構築したいわけです。だから自治体は企業から立地の話があってから、用地確保に動き出すのでは機会を失うことにもなりかねません。特に用地の引き合いの強い大都市圏では、自治体はできる限り用地の先行取得に努めるべきだし、その提供の仕方も分譲だけでなく、賃貸やリースなど多様性を持たせたほうがいいですね。

地域にある大学の質を高めよ

―― 他にはどんな条件があるでしょうか。

真野 特に地方に当てはまると思うのですが、地域にある大学の質を高め、そこを創造と革新の拠点として構築していくことが重要だと考えています。大学のレベルが上がれば、それに魅力を感じる企業も出てくるでしょう。そうした企業が多く集まれば、大学のレベルはさらに高まり、より多くの企業が集まる。こうした循環をつくって産業集積を図っていくのです。

 その実現のためにも自治体はもっと本腰を入れて大学を支援するべきだと思いますね。地域で水準の高い技術者や技能者の育成を図り、人材供給していく体制を整えることも必要でしょう。

 海外との競合も視野に入れるべきですね。特に助成金や優遇税制の面では、日本よりはるかにいい条件で誘致している国が欧米やアジアには数多くあります。

 もちろん、高額な助成金や優遇税制だけに魅力を感じて企業が立地を決めることはまずないでしょう。ただ、世界を知るグローバル企業にしてみれば、立地環境が自社に適している上に、海外に見劣りしない優遇措置があれば、より強い関心を持って、国内立地に目を向けるのではないでしょうか。優遇措置の規模は進出企業が生み出す税収や雇用増、関連産業集積などの費用対効果を精査して、できる限り拡大するべきでしょう。


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