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八代 尚宏(やしろ・なおひろ)

昭和女子大学グローバルビジネス学部長・特命教授

八代 尚宏

昭和女子大学グローバルビジネス学部長・特命教授。1946年生まれ。大阪出身。国際基督教大学卒業後、旧経済企画庁を経て上智大学教授、日本経済研究センター理事長、国際基督教大学教授等を経て現職。

◇主な著書
日本的雇用慣行の経済学』(石橋湛山賞、日本経済新聞社) 1997年
シルバー民主主義』(中公新書) 1997年
日本経済論入門(新版)』(有斐閣) 2017年

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

ニュースを斬る

解雇の金銭解決ルールはなぜ日本でも必要か

2017年6月1日(木)

「解雇規制が厳しすぎる」という批判は根強いが…

 厚生労働省の「透明かつ公平な労働紛争解決システム等のあり方に関する検討会」の最終報告書が5月31日に公表された。

 これは欧州の主要国で普及している、解雇の金銭解決ルールを日本にも初めて導入するものである。この報告書は、法曹界・学界の専門家や労使団体の代表者などが1年半かけて審議した検討会での議論をまとめたもので、今後、労働政策審議会での検討を経て、速やかな法制化に結びつくことが期待されている。

 日本の解雇規制に関しては多くの誤解がみられる。まず、現行法について「解雇規制が厳しすぎる」という批判は的外れである。むしろ個別労働紛争に関する明確なルールを欠くことから、裁判官の判断にばらつきが生じやすい「判例法」に依存せざるを得ないのが現状であり、効率的な規制作りが求められている。

 他方で、明確な解雇ルールを策定すると「カネさえ払えば会社は自由に社員を解雇できるようになる」という批判も妥当ではない。これは既に、「十分な補償もなしに解雇されている」中小企業の労働者の現状から目を背けるものだからだ。

 この解雇の金銭解決ルールを導入し、労使双方にとって補償金の相場を明確にする目的は2つある。第1に、長期の裁判に訴えられず迅速な労働局あっせん等を利用する中小企業の労働者の受け取れる補償金の増加で、大企業の労働者との間の不公平の是正である。第2に、万一の解雇コストに関する予測可能性を高めることで新規投資を促進し、正規社員の雇用機会拡大に結びつけることである。

 現行の雇用慣行は元々、法律に基づくものではなく、戦後の高い経済成長期に、熟練労働者の確保という企業の必要性から成立したものである。長期的な雇用保障と年功賃金の組み合わせで労働者の生活を安定させ、企業の利益が長期的に労働者に還元される労使の円満な関係を通じて日本経済の発展に大きな貢献を果たした。しかし、その過去の成功体験自体が経済社会環境の変化に対応した労働市場改革を阻む大きな要因となっている。

 特定の企業だけに依存した雇用保障は、その代償として慢性的な残業や転勤など無限定な働き方と一体的で、とくに女性の活用を阻む大きな障害となる。また、低成長期に企業倒産や整理解雇のリスクが高まるなかで、欧州主要国のように、雇用契約の終了時に企業が労働者にどう補償するかの明確な手続きを法律で定めておくことは、企業と大部分の労働者にとって共通した利益と言える。

日本の解雇法制の問題点

 現行の労働基準法には、組合活動や育児休業等に関する差別的な解雇の禁止を除けば、30日分の賃金に相当する解雇手当を支払うとしか規定がない。しかし、それだけでは雇用保障の社会的慣行に反することから、裁判所が「使用者には解雇権があるが、それを濫用してはならない」という解雇権濫用法理を生み出した。

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