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寺井 伸太郎(てらい・しんたろう)

日経ビジネス記者

寺井 伸太郎

2002年、慶応義塾大学を卒業し、日本経済新聞社に入社。東京や名古屋での企業担当などを経て、直近は決算を取材する証券部。15年から現職

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

Special Report

ロシア市場の攻略法 リスクの裏に商機あり

2017年7月24日(月)

日本にとって依然「近くて遠い国」のイメージが残るロシア。経済関係は資源など限定的だが、日ロ両政府の接近で潮目が変わりつつある。新たなフロンティアを求めて先行企業はすでに動いている。

ホッコウの技術を導入した温室がシベリアで稼働。日本人と似ているが、写っている8人中5人がロシア人
収穫したトマトは地元スーパーへ。ロシアでも食の安全に関心

 冬場はマイナス60度を超える極寒のロシア・シベリアの都市、ヤクーツク。2016年12月末、真っ赤な取れたてのトマトがスーパーマーケットの店頭に並んだ。中国産の輸入品の2倍近い価格ながら、地元の主婦らが殺到。初回出荷分の約60kgは即完売した。それもそのはず。このトマトは厳しい自然環境下、新鮮な野菜の調達に慢性的に苦しむヤクーツクで育った地元産だからだ。

 特別仕様で作られたビニール張りの「トマト工場」はヤクーツクの郊外にある。暖かな光がともって冬や夜はよく目立つ。建設や運営を指導したのは、園芸施設を手掛けるホッコウ(札幌市)だ。北海道で培ってきた寒冷地向けの技術を惜しげもなく投入した。

「近くて遠い国」のイメージも根強い
●ロシアの主要都市

極寒の地でトマトを栽培

 ホッコウとヤクーツクの出合いは15年に遡る。地元で安全な野菜を安定的に栽培したいロシアの現地当局者らが情報収集の末、たどり着いたのがホッコウだった。人口約30万人のヤクーツクでは冬場を中心に塩漬け野菜でしのぐことも多く、健康面からも生野菜の確保が重要な課題となっていた。温室計画は過去にもあったが、厳しい自然や安定的な栽培ノウハウが足りず、ことごとく挫折してきたという。

 ロシアからの依頼と聞き、ホッコウの宮本悦朗社長は最初、半信半疑だった。だが何度か現地の視察団を受け入れるにつれ、本気だと実感。協力することを決めた。ロシア側は当初、一挙に3万平方メートルに上る温室整備を希望したが、ホッコウはまず実証棟として1000平方メートル規模を提案。こうして16年半ばにプロジェクトが動き始めた。

 温室の壁は北海道ではフィルムとフィルムの間の空気が断熱材の役割を果たす2層フィルム。だが、ヤクーツク向けは断熱効果をより高めるために3層構造のフィルムを特別に開発した。資材と設備は日本から運び込む一方、慣れない氷の大地での基礎工事は現地企業に委ねた。さらに温度や水のデータ解析を担当する3人のロシア人の教育も並行して日本で実施。「箱モノだけでは円滑な栽培はできないから」(宮本社長)と基本から粘り強く指導した。

 そして迎えた収穫の日。煌々とランプに照らされながら、20~25度に保たれた温室内ですくすくと育ったトマトを前にヤクーツクの当局者は思わずつぶやいた。「ここまでうまくいくと思わなかった」

 ロシアでは暖房用のガスが産出され、安価に調達できるのは強みだ。今後は本来の目標である3万平方メートルの温室整備という新たな段階に入る。20億円強の費用を投じ、20年をめどに全面稼働させる計画だ。新鮮な野菜を欲するロシア・シベリアの人々にとって、ホッコウは不可欠な企業といえる。

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