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岡部 直明(おかべ・なおあき)

ジャーナリスト
武蔵野大学 国際総合研究所 フェロー

岡部 直明

1969年早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本経済新聞社に入社、東京本社編集局産業部、経済部記者、ブリュッセル特派員、ニューヨーク支局長、経済部次長、金融部次長、論説委員などを経て、取締役論説主幹、専務執行役員主幹、コラムニストを歴任。早稲田大学大学院客員教授、明治大学国際総合研究所フェローをつとめる。2018年より現職。「ベーシック日本経済入門<第4版>」(日本経済新聞出版社)、「応酬 ─ 円ドルの政治力学」(同)などのほか以下の著書・編著がある。

◇主な著書
ドルへの挑戦 ─ Gゼロ時代の通貨興亡』(日本経済新聞出版社)
主役なき世界 ─ グローバル連鎖危機とさまよう日本』(日本経済新聞出版社)
EUは危機を超えられるか ─ 統合と分裂の相克』(編著、NTT出版)

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

岡部直明「主役なき世界」を読む

マハティールとリー・クアンユーの間

2018年5月17日(木)

2005年4月、マレーシア・クアラルンプールにある執務室で、リー・クアンユー・シンガポール初代首相(当時、右)と談笑するマハティール首相(当時) (写真=ロイター/アフロ)

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の主軸であるシンガポールとマレーシアがいま世界で脚光を浴びている。シンガポールは初の米朝首脳会談という歴史の舞台になる。マレーシアでは、92歳のマハティール氏が選挙で選ばれた最高齢の首相として復活した。もともと一つの国だった両国が世界の耳目を集めるのは何かの因縁だろう。

 マレーシアのマハティール首相は東アジア経済圏構想など独特のアジア主義に基づいて発展をめざした。これに対して、シンガポール建国の父である故・リー・クアンユー首相はグローバル主義によって世界経済のハブの座を確保した。両雄の道に違いはあるが、第2次大戦後の混乱から立ち上がり、世界の信認を得た点では共通している。

92歳で再登場

 92歳のマハティール氏が4党連立を束ねて最高齢の首相として復活することをだれが予想しただろうか。盟友だったナジブ前首相の出国を禁止し、政府系ファンドの不正流用に強い姿勢をみせた。1981年から22年間に及ぶ長期政権で身につけた政治手腕は衰えていない。

 マハティール氏は、リー・クアンユー氏とともに日本経済新聞主催の「アジアの未来」会議の常連で、来日の際にたびたび懇談する機会があった。そのなかで見識豊かなマハティール氏の言葉にとまどったことがある。氏が語る「ヨーロッパ」や「ヨーロッパ人」が「欧州」や「欧州人」を指すのではなく、米国や豪州、ニュージーランドを含めた「白人」を指すことに気付くのに、やや時間がかかった。

 「私たちは、ヨーロッパ中心主義の世界に住んでいる」とマハティール氏は「履歴書」に書いている。そのアンチテーゼとしてアジアを位置付ける。「ほんとうはアジア人が先に欧州を発見したのである」と指摘する。マハティール氏のよりどころは、欧州中心主義に対するアジア主義の復活なのだろう。

ルック・イーストから東アジア経済圏構想へ

 その証拠に、マハティール氏が1981年、首相になってまず取り組んだのが「ルック・イースト」(東方政策)だった。米欧に「追いつけ・追い越せ」できた日本など後発国には、新鮮な視点だった。マレーシアが見習ったのは、米欧ではなく日本の近代化である。マハティール氏がうつむきがちな日本人に対して、いつも賞賛と励ましを忘れないのは、そこに原点があるからだ。

 1990年、その日本を核にして、EAEG(東アジア経済グループ)構想を打ち出す。日中韓にASEANなどアジア諸国が協力するもので「マハティール構想」と呼ばれる。しかし、盟主に担ぎ出されようとした肝心の日本が二の足を踏む。アジア諸国だけで経済圏が創設されることに、ベイカー米国務長官らが警戒し、日本に参加を見合わせるよう圧力をかけてきたからだ。煮え切らない日本の態度に、マハティール氏は不満を隠さなかった。

反IMFで通貨危機打開

 マハティール首相がその本領を発揮したのは、1997年のアジア通貨危機だった。タイを震源とするアジア通貨危機は地域に伝染する。フィリピン、インドネシア、マレーシア、韓国の五カ国である。そのなかで、マレーシアの対応は違った。各国が変動相場制に移行するなかで、マレーシアだけは固定制に復帰する。その旗を振ったのがマハティール首相である。1998年、資本取引規制を導入し、管理フロート制から、1ドル=3.8リンギットで固定制に逆戻りさせる。合わせて、国際通貨基金(IMF)の要求とは正反対の財政出動と金利引き下げで経済を刺激したのである。

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