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菅野 沙織(すげの・さおり)

大和総研経済調査部(ロンドン駐在) シニアエコノミスト

菅野 沙織

モスクワ生まれ。中央大学の研究生として来日後、1998年に経済学博士号を取得。2002年日本に帰化。2005年に内閣府経済社会総合研究所の客員研究員に就任。2006年大和総研入社、2014年から大和証券キャピタル・マーケッツヨーロッパのエコノミスト、2016年から現職と兼務。ロシアのプーチン大統領来日時、日本経団連幹部との会談の通訳を務めた経験もある。

◇主な著書
ロシア人しか知らない本当のロシア』(日本経済新聞出版社) 2008
ジョークで読むロシア』(日本経済新聞出版社) 2011

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

Money Globe ― from London

“火星人の助け”なしに持ち直したロシア経済

2016年11月2日(水)

10月19日、ウクライナ問題を巡ってドイツ、フランス、ロシア、ウクライナの各首脳による会談が独ベルリンで一年ぶりに開催された。(写真=AP/アフロ)

 2008年の世界金融危機時、ロシアではこんなエピソードが話題にのぼったことがある。

 その年の9月に米リーマン・ブラザーズが破綻、世界経済がパニックに陥ったさなか、プーチン大統領は政府高官に緊急の危機対策を立案するように命じた。ある役人は、「脇を引き締めて(歯をくいしばって)一所懸命に働いて、構造改革を成功させて、危機をしのぎましょう」と提案した。一方、別の役人はもはや打つ手なし、とばかりに「火星人が助けにくるのを待つくらいしかありません」と半ば諦観気味に進言した。すると、プーチン大統領は迷わず「2人目の提案の方が現実的だ」と評価したという。

 当時のロシアには文字通り打つ手がなく、あのプーチン大統領でも奇蹟を期待するしかなかった、という趣旨だが、この話には続きがある。世界金融危機後、原油価格が上昇し、ロシア経済は想定以上に早く、リーマンショックから立ち直ったのだ。結果的に原油価格が、ロシアにとっては“火星人の助け”となった。

 いささか古い逸話を紹介したのは、現在のロシアが再び経済危機に陥りつつあるからだ。欧米による経済制裁、そしてリーマンショックを救ってくれた原油価格の下落というダブルパンチに見舞われている。2014年後半から始まった景気後退局面は、深刻の度合いを増している。

 しかし、2008年と違って、今のロシア経済には火星人の助けは必要なさそうだ。実は意外なほど、ロシアは自力で危機から脱却できる力を備えつつあるからだ。

原油価格が半減しても経常黒字を維持

 原油価格高騰の時代にロシアが経常黒字を積み上げていたことは驚くに及ばないが、実は原油価格が下落したリーマンショックの後でさえ経常収支が赤字に転落したことはない。2014年に原油価格が暴落した時も経常黒字が維持されていた。

 現在はロシアの輸出の大半を占める資源の価格下落を受けて輸出が大幅に減少しているが、ルーブル安を背景に国内では輸入物価が高騰し、輸入品への需要が減少している。さらにロシアによる対抗制裁の影響で輸入が急減したことを受けた結果、規模こそ縮小しているものの経常黒字を維持している。

 ロシア中央銀行のデータによれば、2016年1〜9月期の経常黒字は156億ドルと、1年前と比較して70%減少した。もっとも、ウクライナ、シリア問題をめぐり欧米との溝が埋まらない地政学的な環境においては、経常黒字はルーブル相場を外部ショックから守る一種の緩衝材の役割を果たしている。

 もちろん、輸入が激減したことは、内需の落ち込みや景気後退に伴う投資意欲の大幅な低下を示唆している。持続的な経常黒字にはこうした好ましくない面もある。それでも、2015年半ばから2016年にかけてロシア経済は「適応」あるいは「安定」と表せる時期であっただろう。その証左として、輸入の減少幅が縮小し始めている。輸入の減少ペースが和らぎ始めると、輸出が伸び悩む状況下では経常黒字の縮小に拍車がかかる。これが景気回復の裏付けになるのであれば、実際には悪くない動きである。

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