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財部 誠一(たからべ・せいいち)

経済ジャーナリスト

財部 誠一

1980年、慶應義塾大学を卒業し野村證券入社。出版社勤務を経て、1986年からフリーランスジャーナリスト。1995年、経済政策シンクタンク「ハーベイロード・ジャパン」設立。金融、経済誌を中心に数多く寄稿し、気鋭のジャーナリストとして活躍。BSイレブン「財部誠一の『異見拝察』」などに出演。
『京都企業の実力』、『シェール革命 繁栄する企業、消える産業』、『ローソンの告白』、『メイド・イン・ジャパン消滅! 世界で戦える「製造業」をどう守るか』、『日本経済 起死回生のストーリー』など、著書多数。

◇関連リンク
財部誠一オフィシャルホームページ
財部誠一の「異見拝察」

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

財部誠一 脳梗塞からの帰還

「装具をつけない」選択をした私は幸運だった

2017年11月1日(水)

前回から読む)

写真は「短下肢装具」という短いタイプの装具だが、麻痺が強い脳梗塞患者の初期の治療用としては、ふくらはぎ全体をカバーする「長下肢装具」という長いタイプが使われることも。 ※ 写真はイメージです(画像:PIXTA)

たった一度だけ涙を流した時のこと

 不覚にも思わず涙を流したことが一度だけあった。初台リハビリテーション病院に入院して間もない頃だ。

 初台のリハビリスタッフはチーム制をとっている。メインの担当者以外に3名の理学療法士が私の情報を共有し、バックアップしてくれる体制だった。

 「装具は使用しない」

 このコンセプトはチーム全体で了解されていた。ところがある日、チームの責任者が「一度だけこれをつけてみてくれ」と言い出した。彼は足底から太ももの付け根まで、右足全体を包み込む皮製の装具を手に持っていた。

 膝関節にあたる部分はズボンのベルトのように緩めたり、きつく締めたりして可動域を調整することができる。足首や膝が突然ガクリとして私が転倒しないよう、彼は膝部分を強く締め、右足を一本の棒のようにガッチリとかためた。

 「平行棒を左手で持ったまま、それで歩いてみましょう」

 なんなく歩けることはわかっていた。初台へ転院する前、急性期病院のリハビリでも、平行棒を支えにさえすれば、四苦八苦しながらも、装具なしでの歩行練習が出来ていたのだから、装具で右足をガンダムのように固めてしまえば当然歩ける。

 涙の理由はこの後だ。

地獄の淵で思いがけず、吉兆に出くわした

 その理学療法士は、膝関節部のベルトをほどき、膝が自由に動けるようにすると、平行棒から手を放し、フリーハンドで自分の方に歩いて来いというのだ。これには驚いたというか、恐れ慄(おのの)いた。

 「いくらなんでも無理だ」

 体幹もすっかり弱くなり、姿勢の制御もままならぬ状態だったから、平行棒から手を離せば転倒すると思い込んでいた。しかし右足は“ガンダム”だ。恐るおそる右足を出してみると、魔法にかかったように、スッとでた。今にして思えば、カラダのバランスも悪いし、右足もきれいに前に出せず、外側からぶん回すようになっていたであろうことは容易に察しがつく。

 だが1メートル、2メートルと、歩けている現実は、地獄の淵で思いがけず、吉兆に出くわしたようなもので、その瞬間、それまで感じたことのなかった感情が一気に込み上げてきたのである。根拠などあるはずもないが、なぜかその瞬間、私には「歩けるようになれる」という確信が熱い感情となって込み上げてきたのだった。

病院のリハビリルーム。 ※ 写真はイメージです

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川野 幸夫 ヤオコー会長