• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

「清原薬物問題」をどう捉えるべきか

薬物依存症治療の第一人者に聞く「病」の実態と課題

2016年2月10日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 清原和博・元プロ野球選手が2月2日、覚せい剤取締法違反の疑いで、現行犯逮捕された。世間に大きな衝撃を与えたこの事件。メディアによる報道はいまだ収まる気配にない。
 法を犯したとはいえ、薬物依存はれっきとした精神疾患でもある。薬物依存者に対して懲罰的な発想が根強いが、果たしてそれで本質的な解決につながるのか。
 薬物依存症研究の第一人者である、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健医療研究所薬物依存研究部長の松本俊彦氏に、病の実態や横たわる課題の数々について尋ねた。

(聞き手は庄子 育子)

心が薬物にハイジャックされている状態

清原氏逮捕時の様子をあるテレビ局が独占的に捉えていましたが、薄着であるにもかかわらずかなり汗をかいているなど、少し異様な感じがしました。臨床的にはどんな状態であったと捉えられますか?

松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長/自殺予防総合対策センター 副センター長
1993年佐賀医科大学医学部卒業後、国立横浜病院精神科、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部附属病院精神科などを経て、2015年より現職。日本アルコール・薬物医学会理事、日本精神科救急学会理事、日本青年期精神療法学会理事。主著として、「薬物依存の理解と援助」(金剛出版, 2005)、「自傷行為の理解と援助」(日本評論社, 2009) 、「アディクションとしての自傷」(星和書店, 2011)、「薬物依存とアディクション精神医学」(金剛出版, 2012)、「アルコールとうつ、自殺――「死のトライアングル」を防ぐために」(岩波書店, 2014)、「自分を傷つけずにはいられない――自傷~回復するためのヒント」(講談社, 2015)、「もしも「死にたい」と言われたら――自殺リスクの評価と対応」(中外医学社, 2015)など。

松本:推測でしかありませんが、目がつり上がり、汗も噴き出ているところからすると、覚せい剤を使用してまだ間もない、薬が体の中に入っている状態かなと感じました。

清原氏をめぐっては、長期にわたり覚せい剤を使用していた可能性も高いのではないかと言われています。

松本:これも推測の域を出ませんが、たしか2年ぐらい前に疑惑の報道があって仕事が激減する中、本人だって覚せい剤をやめなければと感じていたと思うんです。それでも使っていたということは、清原さんは自分の意志だけではコントロールできない状態、恐らくは薬物依存症の状態にあると推察されます。

薬物依存症とは実際どういう病気なのでしょうか。

松本:端的に言えば、大麻や覚せい剤、シンナーなどの薬物を繰り返し使用した結果、もうやめようと思っていろいろ工夫しても、なかなかうまくいかない、そういう病気です。「心がいつも薬物に捉われている」状態、言い換えれば、脳が依存性薬物に「ハイジャック」され、自分の意志や行動が薬物にコントロールされている状態を示します。

 そもそもなぜ人は薬物に依存するのか、依存性薬物にはどんな効果があるのか。例えば、勉強や運動を一生懸命頑張って良い成績を取り、周囲からほめられると嬉しいですよね。そんな風によい気分を味わった人たちは、嬉しさを自分の糧にして、また勉強や運動を頑張り、ある人はいい学校へ行き、またある人はスポーツで認められるようになります。脳内の快感中枢を直接刺激する性質を持つ覚せい剤は、言うなれば、この努力の後の周囲から承認された気持ちよさに通じる感じを与えてくれるんですよね。

実際には努力の過程を経ることなくですね。

松本:ええ。その効果は絶大です。人を勉強好きやスポーツ好きにさせるのと同レベルということですから。勉強をほめられた子供がせっせと勉強に打ち込むようになるのと同じように、薬物で多幸感を体験した人は再びその体験を求めて薬物使用を繰り返すようになるわけです。

 もっとも、多くの場合、最初は、週末だけとか、友達とパーティーの時だけなど、自分なりのルールを定めて薬物を使っていて、それなりにコントロールもできています。けれど、誰しも日々の生活の中で嫌なことやつらいことってありますよね。そんなときに薬物の使用量が増えていくんですね。

 当の本人は、「自分はつらいことがあってもこうやって気持ちを切り替えて、薬も自分の生活もコントロールでてきている」と思い込んでいる。けれども、実際には使い方がおかしくなって量も増えていく過程で、薬にすっかり振り回されている状態になってしまっています。

価値観の序列が変わり、嘘つきに

そうして薬物中心の生活になるのですね。

松本:ええ。薬物被害で一番恐ろしいのは、薬の使用によって、本人の価値観の序列が変化してしまうことです。例えば、これまで自分にとって大切だったのは、家族や恋人、友人、仕事、財産、健康、そして将来の夢だった。けれど、気付くと薬物が最上位に来て、薬を使える仕事、薬を許してくれるパートナー、薬を使うことを見逃してくれる友達などを選ぶようになる。

 すると、昔の自分とずいぶん変わってしまって、だんだんと自分らしさがなくなってしまう。周りからすると、「性格が変わった」「別人になった」という話になるわけです。

 覚せい剤の使用によって一時的には薬を使ってパフォーマンスが上がることもあります。これまで学校や職場で全然ほめられたことがなかったのに、薬を使って寝ずに勉強や仕事をしたら周りからほめられた。もちろん周囲は薬を使っていることを知らない。

 そんな中、やっぱりほめられるのはうれしいから、「こうすれば頑張れるんだ」と思って、頑張るために薬を使う。でも、薬を使っても前と同じパフォーマンスで、薬を使わないとがくっとパフォーマンスが落ちている状態なんてすぐにやってきます。

 そうなると、自分が自分であり続けるためには薬を使い続けなければならない。でも規制されている薬物であれば、隠れて使うしかないですよね。だから周囲に嘘をつかざるを得なくなってくる。お金もかかるから、お金を引き出すために、またあれやこれや嘘をつく。そうこうするうちに本当に嘘つきになってしまうんですよね。

コメント10件コメント/レビュー

「自助グループ」に行ったはいいが、そこで「薬物仲間」に出会ってしまい、後で昔の話になって、つるんでまたやってしまったという人の話も聞き、難しいと感じました。(2016/08/17 13:59)

「キーパーソンに聞く」のバックナンバー

一覧

「「清原薬物問題」をどう捉えるべきか」の著者

庄子 育子

庄子 育子(しょうじ・やすこ)

日経ビジネス編集委員/医療局編集委員

日経メディカル、日経DI、日経ヘルスケア編集を経て、2015年4月から現職。診療報酬改定をはじめとする医療行政や全国各地の医療機関の経営を中心に取材・執筆。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

「自助グループ」に行ったはいいが、そこで「薬物仲間」に出会ってしまい、後で昔の話になって、つるんでまたやってしまったという人の話も聞き、難しいと感じました。(2016/08/17 13:59)

個人的に犯罪者を軽蔑しようが非難しようが勝手ですが、社会に必要なのは犯罪を減らす事。
罰するより再生プログラムに力を入れた方が費用対効果が高いなら、社会的にはそちらを選択するべきでしょう。
個人の思想と社会政策は分けて考えたいものです。(2016/02/10 19:35)

「薬物依存は完治しないが、回復はする」という言葉を含め、非常に勉強になった。ありがとうございます。(2016/02/10 17:13)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

リクルートは企業文化そのものが競争力です。企業文化はシステムではないため、模倣困難性も著しく高い。

峰岸 真澄 リクルートホールディングス社長