“労働教”から離脱し、キリギリスとして生きよ

精神科医の泉谷閑示氏に、これからの「働き方」を聞く

  • 柳生 譲治

 電通社員の過労自殺事件をキッカケとして「長時間労働」の是正が国民的な関心事となっている。しかし現実には、法で定められた有給休暇の消化すらままならないのが働く人の現状だ。長時間働いていれば「あいつは頑張っている」と見なされるのが日本社会。逆に、周りが多忙な中でさっさと早帰りすると「空気の読めない奴」などと白い目で見られる現実。それは日本社会ならではの会社組織への「同調圧力」が働いているからではないか。

 『仕事なんか生きがいにするな ~生きる意味を再び考える~』という刺激的なタイトルの著書を1月に出版した精神科医の泉谷閑示さんはこれまで、全ての人に同質的価値観が求められるがゆえに、個人が追い詰められる日本社会の問題を論じてきた。働くことこそ生きることという“労働教”によって精神的なバランスを崩していく、日本のビジネスパーソンのための処方箋を聞いた。
泉谷閑示(いずみや・かんじ)氏
精神科医、思想家、作曲家

1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院、財団法人神経研究所附属晴和病院などに勤務したのち渡仏、パリ・エコールノルマル音楽院に留学。現在は、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。「泉谷セミナー事務局 official site」を通じて、一般向けのセミナーや勉強会も行っている。『「普通がいい」という病』『反教育論 ~猿の思考から超猿の思考へ~』など著書多数。近著に『仕事なんか生きがいにするな ~生きる意味を再び考える~』『あなたの人生が変わる対話術』がある。

「頭」と「心」は異なる、そのことをまず知るべし

「働き方改革」が大きなテーマになる中で、長時間労働からうつ病を発症したり、さらには過労死したり過労自殺したりする人たちが日本には絶えません。いま泉谷先生のクリニックを訪れるビジネスパーソンの方々には、どういう傾向がありますか。

泉谷:精神的に追い詰められた原因はクライアントさんによって様々です。パワハラ的な上司の独裁の下で疲弊し葛藤している人もいれば、どんな目的で使われるかも分からない仕事を振られて「オレは何をやっているのだろう」と、はたと自分の生き方に疑問を感じてやって来られる方もいます。

 ただ、原因は様々でもその結果として、うつ病になって休職を余儀なくされ、通り一遍の薬の治療だけでは先が見えずに、休職と復職を繰り返すような方が少なくないのが現実です。そういう方々は「硬い勤勉さ」を持った、生真面目でストイックな感じの人が多いように思います。ストイックに自分にムチ打って、怠けを絶対に許せないような人たちです。

 やれるところまで精いっぱい働くべきだと、常に限界まで挑んでしまう。精神のバランスを崩してしまう人は、そういうタイプであることが昔から多いのです。そんな人たちには、「頭」と「心」は異なるということをまず、知っていただきたいと思います。

「心」に常にフタをしてしまうと、精神的な病につながる

「頭」と「心」の違いとは、どういう意味でしょうか?

泉谷:頭も心も同じようなものだろうと思っている人は少なくないと思いますが、それは間違いです。「頭」とは理性の場であり、一方の「心」は感情や欲求、感性、直観の場で、「身体」と分かち難くつながっています。例えば「頭」は仕事を進めるための情報処理を行い、過去を分析したり、未来を予測したりします。それに対して「心」は野生原理の感情や欲求の場ですから、仕事はしないで「休みたい」とか「眠りたい」「遊びたい」とかいう欲求を抱えていたりします。

 本来、動物は「身体」と連携した「心」のみでできているのですが、近代以降の人間は、「頭(理性)」が思い上がって「心」の出した結論を軽視し却下しがちなのです。「頭」が「心」の欲求に常に「フタ」をしてしまっているのです。「頭」が「心」を強力にコントロールしようとしているわけですね。これでは、うつ病などの精神的な病気を引き起こしてしまうのも仕方のないことです。

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