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ホームレス作家の軌跡

「日本海の雪の中、新聞紙で寝ていました」

2018年3月31日(土)

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 無一文で盛り場を徘徊し、やくざや女に追われ、全国を放浪した男がいる。世川行介氏。国立大学を出て、父親から地方の郵便局長を継いだまではよかった。株で失敗して郵政の世界から追われ、歌舞伎町、千葉、大阪、北陸、上野、入谷などを野宿しながらさまよった。その間に数々のノンフィクションを生み出した世川氏は、昨年から小説家に転じた。構想10年という歴史小説3部作は、やはり放浪の旅で生まれていた。

私が世川さんと最初に会ったのは2001年でした。株に失敗して郵便局長を辞めて、歌舞伎町を放浪していた頃ですね。それから2年後、風俗嬢ややくざの生き様を描いた『歌舞伎町ドリーム』(新潮社)を出版したのはよかったけど、そこに出てくるやくざに頭をかち割られて、新宿から逃げ出しました。

世川行介氏。郵便局長からホームレスに転落、どん底から歴史小説家として復活した

世川行介氏(以下、世川):そうですね、あの時は千葉に逃げました。もう2度と歌舞伎町には戻れないと覚悟して。そして、『郵政――何が問われたのか』(現代書館)を書き上げて、今度は大阪に飛んだ。でも、新聞社や出版社から取材依頼があって、2006年に千葉に戻ってきたんですね。そして、津田沼や船橋のネットカフェを転々として過ごしていました。

大阪にいた頃は、たまに夜行バスで東京に戻った時、八重洲で飲みましたね。かなり、やつれていた感じでした。

世川:もうやることがなくなってしまったからね。郵政も民営化されてしまったし。だから、それまで応援してくれていた特定局長たちが、僕に用がなくなったわけです。それまでは「カネがない」と言えば送金してくれたんだけど、民営化でぴたっと止まった。

 「なんだこいつら、そんなもんか」。そう吐き捨てても、どうにもならない。そこから2年間、僕は本当に文無しだった。ちょっと誰かがカネを送ってくれると、それを持ってマージャン屋に行って小金を稼ぐ。そうやって食いつないでいたわけです。それが終わると、宿もなければ食べるものもない。だから、よく野宿をしてました。

ホームレスパーティー

それで、北陸に放浪に出た。

世川:そうですね。郵政本を出した翌年のことでした。暮れになっても書く意欲もないし、終わりだと思って、日本海を旅しました。

 今だから言うけど、東尋坊に行こうと思ったの。身を投げようとね。でも、途中でおカネが尽きちゃって、富山で降ろされた。別に、富山に行きたかったわけじゃないんです。まだ粉雪が降っている2月のことでした。あてもなくうろついて、富山の城跡の公園のベンチでコートをかぶって寝ようとするんだけど、寒くて眠れないんですよ。

 タバコを買おうと思ってポケットに手を突っ込んだら200円しかない。ショートホープを1個だけ買うんだけど、スカスカだからすぐなくなる。しょうがないから、落ちてるタバコを拾って朝までしのいだ。それで朝、公衆電話に10円玉を投げ込んで、友人が出たら「オレだ、世川だ。至急、カネを送ってくれ」と言ってすぐに切る。さすがにヤバそうだと、送ってくれる人がいました。

 カネが振り込まれると、それを握ってまたマージャン屋に行くわけ。麻雀をやっている間は宿代もかからない。稼げば木賃宿に泊まれるし。

稼げないと?

世川:富山駅の構内で過ごすんですよ。でも、深夜12時に待合室が閉められてしまう。すると、ホームレスがみんな集まるの。それで、「お前も来いよ」と言われて、「いや、いいです」と。で、僕は横で眺めていたんだけど、どっからともなく料理が出てきて酒盛りをやっている。旅館のごみ箱からあさってくるらしいの。俺はそれをずっと眺めていたわけ。

 それで朝5時になったら、また待合室が開くんですよ。寒いから、私もぱっと入ったら、吐きそうになった。ホームレスの体臭や悪臭がまざって、鼻を突くんです。そんなことを何回かやりまして、富山では生きていけねえな、と思ったんですね。

コメント3件コメント/レビュー

ホームレス作家という言葉を良く聞き始めたのは、やはりバブル崩壊時期からか。
ホームレスになる原因と生活の経緯を書き綴ったものは、それだけで人々の好奇心を煽り、いわば人の不幸は蜜の味としての興味で読まれる。
ただ、そうした作家視点が突如別のところに、新たな小説分野として焦点化されることは、やはり独特のホームレス経験が可能にする、不可思議で濃厚な発想のように思えた。
しかし最近、世川氏のような男気系自堕落な話を聞かなくなったなぁ。(2018/04/02 11:03)

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「ホームレス作家の軌跡」の著者

金田 信一郎

金田 信一郎(かねだ・しんいちろう)

日経ビジネス編集委員

日経ビジネス記者、ニューヨーク特派員、日経ビジネス副編集長、日本経済新聞編集委員を経て、2017年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ホームレス作家という言葉を良く聞き始めたのは、やはりバブル崩壊時期からか。
ホームレスになる原因と生活の経緯を書き綴ったものは、それだけで人々の好奇心を煽り、いわば人の不幸は蜜の味としての興味で読まれる。
ただ、そうした作家視点が突如別のところに、新たな小説分野として焦点化されることは、やはり独特のホームレス経験が可能にする、不可思議で濃厚な発想のように思えた。
しかし最近、世川氏のような男気系自堕落な話を聞かなくなったなぁ。(2018/04/02 11:03)

丈夫な体あってのものだね。(2018/03/31 10:56)

慶長挽歌の早期出版を望みます(2018/03/31 00:43)

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私自身もブラックベリーとともに育った人間。そんな会社がそのまま消滅するのを見たくなかった。

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