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「エスカレーターで歩くな」と無茶言う人の末路

江戸川大学の斗鬼正一・社会学部現代社会学科教授に聞く

2017年6月23日(金)

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 日本社会全体の課題となってきた生産性の向上。働き方改革を推し進めるにはオフィスだけでなく、人や車の流れなど、社会全体を効率的に設計することも必要だ。今からおよそ80年前、まさにそんな「社会の効率化」を目的に英国で作られ、その後、世界の大都市に普及したルールがある。「エスカレーターでは急ぐ人のために片側を空けましょう」だ。

 ところが、当時の英国に負けず劣らず効率化が求められている現代日本で、この紳士的ルールに異を唱える人が増えている。「エスカレーターでは片側を空けず両側に立ち、じっとしましょう」と主張する彼らの最大の根拠は「危ないから」だ。とはいえ、国民的ミッションである働き方改革に整合的な上、既に社会に定着しつつある「片側空け」を今さら覆さねばならぬほどエスカレーターで片側を空けるのは、本当に危険なことなのか。エスカレーターで歩くなと主張する人々の考え方と、そうした思考回路を持つ人の行く末を、世界のエスカレーターマナーに詳しい専門家と考察した。

聞き手は鈴木信行

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斗鬼正一(とき・まさかず)
文化人類学に魅了され、大学院修士、博士課程と専攻。江戸川女子短大から江戸川大学創設とともに着任、人間陶冶と生きる力を磨く文化人類学の魅力を学生に伝えている。テレビ、新聞などのメディアでも、ミクロネシア、香港、ニュージーランド、日本各地等での現地生活密着型フィールドワークを通して出会った、あまりに多様、複雑な人間とその社会という不思議な存在の魅力を発信している。近著に『頭が良くなる文化人類学』(光文社新書)

なぜエスカレーターのマナーに関心を持つようになったのですか。

斗鬼正一氏(以下、斗鬼):私は文化人類学を専攻していますが、中でも異文化コミュニケーション、さらに具体的に言えば「海外から流入してきた異文化に日本人がどう対応するか」について強い関心を持ってきました。その意味では、古くは明治維新後の文明開化、最近では言えば、例えば「携帯電話文化の流入と日本社会の反応」なども研究対象になります。

 エスカレーターも海外から入ってきた文化の一つです。携帯電話などと比べて特徴的なのは、1914年の東京大正博覧会、日本橋の三越呉服店(現三越百貨店)への導入から既に一世紀が過ぎても、いまだ使い方について社会的ルールが完全には形成できていないことです。

弊社女性社員が三田駅で怒鳴られた理由

確かに。「片側を空けて急いでいる人を通す」というルールが定着したのかと思いきや、ここへ来て「両側に立ってじっとすべき」という意見が出てきました。つい先日も、弊社の女性社員が都営三田線の三田駅のエスカレーターを歩いている時、後方から「歩いてんじゃねえよ!!」と怒鳴られる事案が発生しました。

斗鬼:エスカレーターにおける片側空け(片側歩行)が初めて出現したのは、第2次世界大戦時の英国・ロンドンの地下鉄だと言われています。当時の英国は戦時体制下。社会全体で効率向上が求められていた時期で、その施策の一環でした。

 日本で片側空けが始まったのは1967年頃、大阪・阪急電鉄の梅田駅が最初で、その後、1980年代後半から90年代に掛けて東京などでも同様の現象が見られるようになりました。

いずれも、当局や鉄道会社の呼び掛けで始まったのですか。

斗鬼:英国はロンドンの地下鉄当局、梅田駅は阪急電鉄の呼び掛けでしたが、東京などは、「紳士の国・英国に見習おう」といった一部の人の主張に合わせ、自然発生的にルールとして定着していったようです。

片側空けは、英国や日本以外でも広く普及していると聞きます。

斗鬼:米国やフランスなどでも見られるルールです。中国でも北京や上海など都市部では五輪や万博を機に当局が要請し、韓国でもワールドカップを機に片側空けの導入が進みました。いずれも多くの外国人が自国を訪れる国際的イベントの開催に合わせたタイミングで、「紳士的な先進国である」ということを世界に示したかったためだと思われます。

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「「エスカレーターで歩くな」と無茶言う人の末路」の著者

鈴木 信行

鈴木 信行(すずき・のぶゆき)

日経ビジネス副編集長

日経ビジネス、日本経済新聞産業部、日経エンタテインメント、日経ベンチャーを経て2011年1月から日経ビジネス副編集長。中小企業経営、製造業全般、事業承継、相続税制度、資産運用などが守備範囲。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官