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「君の名は。」までの10年を聞く

川口典孝・コミックス・ウェーブ・フィルム社長(前編)

2017年3月24日(金)

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「秒速5センチメートル」新海誠監督、2007年公開作品
半年前のインタビューを掲載する言い訳

 昨年8月末公開の「君の名は。」(新海誠監督)は、2017年3月24日現在、なおもロードショーを継続中だ。

 配給会社の東宝は3月6日、「君の名は。」の興行収入を「公開194日間で245億6869万円」と発表。この時点で日本での興収史上4位で、すぐ上に「アナと雪の女王」がいて、その上は「タイタニック」、そして首位の「千と千尋の神隠し」を残すのみだ。

 新海誠監督と15年に渡って組み、彼の作品の制作、宣伝、配給を支え続けてきたのが、川口典孝・コミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)社長だ。川口氏とは12年ほど前に取材でお会いしてから、時々お話を聞いていた。

 内輪話をすれば、昨年夏、「シン・ゴジラ」の件で東宝の広報部にお電話した際、保留音が「君の名は。」の宣伝だったので「おお、新海さんの作品、大事にされているなあ。そうだ、久し振りに川口さんの顔を見に行こう」と、まことに暢気なことを考え、公開直後に押しかけて四方山話を伺った。そうしたらあっという間に「100億円も狙える大ヒット」になり、慌てて、改めて取材を申し込んだ。

川口典孝・コミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)社長

 川口氏の返事は「取材ということなら、3年待ってもらえないか」だった。

 大ヒットの予兆が溢れる中、制作会社の社長という裏方の自分の発言が、たとえ小さくても映画に悪い影響を与えたくないから、という理由だった。が、他社からのアプローチもあり、限られた数の取材を受けることになって、私も取材できることになった。

 だが、もうひとつ問題が発生する。他のインタビューをお読みになれば分かるが、川口氏は、話すと決めると、本当に率直に話す。しかも、面白い。

 映画は文字通り記録的なヒットになったことだし、インタビューの掲載が多少遅くなっても問題はないだろう。オリジナルの言葉をできるだけ活かしても川口氏が困らないように、公開終了直後に出そう。そう思っていたら、あまりの人気に、いくら待っても上映が終わらない…。

 さすがに困って川口氏に相談し、この時点での公開となった次第だ。最新のお話にアップデートすべきだったかもしれないが、あえて昨年9月時点での「率直な言葉」のままでお伝えする。掲載が遅くなったのはひとえに私の責任であり、ご海容いただきたい。その分、面白いと思います。(Y)

(2016年9月28日・コミックス・ウェーブ・フィルム本社会議室にて)

お久しぶりです。

川口:どうもどうも、ご無沙汰でした。Yさんと最初に会ったのはいつでしたっけ。

●CW、CWFの主なアニメーション作品

2005年、「ネガドン(惑星大怪獣ネガドン、記事はこちら)」の時ですから、まだ川口さんが伊藤忠商事からの出向でコミックス・ウェーブ(以下CW、1998年設立)の取締役の時ですよね。それから、2007年にMBOで会社を買い取って独立されてCWFを設立された。

川口:おかげさまで、なんとかやってこれました。

そして独立から10年目で、「君の名は。」が。興収が30億円を超えて、「100億円も見えてきた」と聞きましたが(※編注:まったく、暢気なことを言っていたものです)。

川口:はい、ありがとうございます。新海誠という天才がいつかこうなる、と信じてやってきましたが、でも35億円を越えたあたりから、もうそれは狙ってできるもんじゃないよなと思ってまして。

コメント14件コメント/レビュー

> 川口:例えば原画マンで....その間は月額何十万円で」みたいな感じです。
> それでも、そもそも上手い方は重視するところがお金じゃなかったり、
読んでいてしみじみ泣けてきました。
「奴はシリコンバレーなら月1000万だね。あれは、スタートアップのCTOが務まる器だ」という会話を耳にしたことがある人間としては。
その会話は10年以上前です。今のシリコンバレーなら、1000万円/月なんてハシタ金ではないはず。
その人は、化物でした。私のような凡人が親しく名前を呼んでもらえることがあり得ない人でした。アニメ業界の化け物も、やっぱり、滅多なことでは見られない化け物だと確信しています。でも、そうした人は日本にいるのです。
> それでも、そもそも上手い方は重視するところがお金じゃなかったり、
御意。でも「シリコンバレーとは、オタを金に変えるシステムだ」「オタは世界中で蔑まれるが、例外がある。その一つが日本だ。日本はオタの楽園だ。日本の問題は、オタで金儲けしようと考えなかったことだ」との言葉が私の頭から離れません。
才能ある人間に金銭的余裕を与えると、社会は変わります。一つ当てた監督ならば、才能ある原画マンならば、ポケットマネーで数人を数年間雇える社会。それは今とは確実に違う社会となります。泣けてきます。(2017/03/27 00:20)

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「「君の名は。」までの10年を聞く」の著者

山中 浩之

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス副編集長

ビジネス誌、パソコン誌などを経て2012年3月から現職。仕事のモットーは「面白くって、ためになり、(ちょっと)くだらない」“オタク”記事を書くことと、記事のタイトルを捻ること。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

> 川口:例えば原画マンで....その間は月額何十万円で」みたいな感じです。
> それでも、そもそも上手い方は重視するところがお金じゃなかったり、
読んでいてしみじみ泣けてきました。
「奴はシリコンバレーなら月1000万だね。あれは、スタートアップのCTOが務まる器だ」という会話を耳にしたことがある人間としては。
その会話は10年以上前です。今のシリコンバレーなら、1000万円/月なんてハシタ金ではないはず。
その人は、化物でした。私のような凡人が親しく名前を呼んでもらえることがあり得ない人でした。アニメ業界の化け物も、やっぱり、滅多なことでは見られない化け物だと確信しています。でも、そうした人は日本にいるのです。
> それでも、そもそも上手い方は重視するところがお金じゃなかったり、
御意。でも「シリコンバレーとは、オタを金に変えるシステムだ」「オタは世界中で蔑まれるが、例外がある。その一つが日本だ。日本はオタの楽園だ。日本の問題は、オタで金儲けしようと考えなかったことだ」との言葉が私の頭から離れません。
才能ある人間に金銭的余裕を与えると、社会は変わります。一つ当てた監督ならば、才能ある原画マンならば、ポケットマネーで数人を数年間雇える社会。それは今とは確実に違う社会となります。泣けてきます。(2017/03/27 00:20)

>大企業に首根っこを捕まれる経営をしてはいけない

この一行に全てが集約されてますね。
どんなに技術が優れていても、大企業にコントロールされて安値で買い叩かれては現場が疲弊していくだけで、食っていけない。
アニメ業界は極端ですが、どの業界もこのパターンが多いと思います。
食い扶持を稼ぐのも重要ですが、高い技術を正当な価格で売らないと意味が無いでしょう。
日本全体を見ても、これが出来てないから景気の実感を感じない人が多いんじゃないでしょうか?(2017/03/26 09:53)

アニメとは別のフリーのクリエイターですが大企業の社員はたとえいくら優秀でも決裁権を持っていない、という話に共感です。その会社のためにどんなに頑張って無理を聞こうとも、料金が上がるわけでもなく担当社員が異動や辞職でいなくなってしまったらそこで終わりです。引き継ぎもなく同じ会社から声がかかる事はめったにありません。

昔は持ちつ持たれつ、という感覚の仕事のやり方でしたが、近年は使い捨て感が半端ないですね。若い内だけ安く酷使し、ベテランは言いなりにならないから使いにくい様子で。コスト至上主義で海外に仕事は流れるし、育った頃にお役御免ではレベルは落ちる一方なのではないでしょうか。
唯一アニメだけが実力主義なため世界で評価されているけれど、それも過酷すぎて優秀な人材が早死にしてはクールジャパンも危ぶまれます。(2017/03/26 02:03)

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