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イノベーションを知らないノキア、熟知したアップル

第4回 企業の存亡は「技術の需要曲線」の見極めにあり

2015年9月2日(水)

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前回のまとめ…破壊的イノベーションとは「顧客にオモチャ呼ばわりされるイノベーション」

 前回の連載で、私達はクリステンセン流のイノベーションの2分類、持続的(sustaining)イノベーションと破壊的(disruptive)イノベーションについて学びました。

 持続的イノベーションは「今ある製品・サービスをより良くする…従来よりも優れた性能を実現して、既存顧客のさらなる満足向上を狙う」タイプのイノベーションでした。そして、持続的イノベーションの競争において、既存の大企業はそれを行う強力な動機があり、資源も持っているため圧倒的な強さを示すのでした。

 これに対し、「既存製品の主要顧客には性能が低すぎて魅力的に映らないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールする、シンプルで使い勝手が良く、安上がりな製品やサービス」をもたらすイノベーションを破壊的イノベーションと呼ぶことも学びました。そして、破壊的イノベーションの製品やサービスは、既存製品・サービスの主要顧客が重視する性能が低過ぎるため、既存製品の主要顧客に見せても見向きもされず、「オモチャ呼ばわりされる」のが特徴でした。

既存優良企業が破壊されるメカニズム

 それではなぜ、既存の優良大企業は、持続的イノベーションの競争ではほとんど常に勝利を収めるのに、このオモチャのような破壊的イノベーションにはうまく対抗できず、「破壊」されてしまう(これを「イノベーターのジレンマ」と呼びます)のでしょうか? それには、2つの要因があります。

 一つは、企業が価値を提供するメカニズム、すなわち、人材や資金などのインプットを、価値の向上というアウトプットに変換するプロセス(仕事のやり方)や価値基準は、経営者が意図的にマネージしない限り変わらないため、そのままでは既存優良顧客や株主の満足度を最大化するような持続的イノベーションのプロジェクトは通すものの、既存顧客にオモチャ呼ばわりされるような破壊的イノベーションは却下するように出来ていることです。

 この、既存企業が「市場の上(利益率が高い方向)には上がれる(持続的イノベーションは出来る)が、市場の下(利益率が低い方向)には降りられない(破壊的イノベーションは起こせない)」ことを、企業は「非対称的モチベーションを持つ」と言います。この「非対称的モチベーション」こそが、「イノベーターのジレンマ」を引き起こす原因の一つなのです。

顧客が便益を感じる性能には「上限」がある

 イノベーションのジレンマが起きるもう一つの原因は、ある性能評価軸における顧客の要求水準には上限があり、顧客はそれ以上の性能には価値を感じないという事実です。そのことをご理解いただくため、これから皆さんを、クリステンセン教授のバーチャル講義にご招待しましょう。

 クリステンセン教授の講義では、まず横軸に時間を、縦軸に既存製品の主要顧客が重視する性能をとります。そして次に、既存製品の主要顧客が利用可能な性能の「点線」を引くのです。私は、この何の変哲もない点線、すなわち「技術の需要曲線」こそが、クリステンセン教授の理論を理解する上で最も重要な構成要素だと思っています。

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「イノベーションを知らないノキア、熟知したアップル」の著者

玉田 俊平太

玉田 俊平太(たまだ・しゅんぺいた)

関西学院大学経営戦略研究科教授

博士(学術)(東京大学)。経済産業研究所フェローなどを経て現職。イノベーションの研究者。監訳に『イノベーションへの解』(翔泳社、2003年)、『イノベーションのジレンマ』(翔泳社、2000年)など。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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