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【258】「虚無さま、ようこそ」と仲良くしてあげなさい

2016年4月30日(土)

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たとえようのない虚無感に襲われます

Q  遊戯三昧を精進すべく、酒を飲み、運動をし、本を読み、おしゃれをし、毎日が充実するよう努力しておりますが、突然たとえようもない虚無に襲われることがあります。一度、虚無に取り付かれると、酒を飲んでも、本を読んでも、むなしさから逃れられず、自分が取るに足らない退屈な人間に思えて、自己嫌悪に陥ります。数日すればまた活力が沸いてくるので、うつではないと思うのですが、この虚無を感じない方法はないのでしょうか、虚無を感じることは、私の行いが、間違っているからなのでしょうか。島地さんは、虚無を感じることはありますか。

(42歳・女性)

シマジ:虚無感か。それは相談者がまともな証拠だ。人生に意味はあるのか。なんのために自分は存在するのか。私は価値のある人間か……。それを考えないで生きていける人間はよほどの幸せ者か、馬鹿のどちらかだね。みんなその答えを探しながら生きているんだ。仕事に答えを求める者もいれば、家族や愛する人が生きる目的だという者もいるだろう。もちろん宗教に答えを求めてもいい。だが、何らかの答えを見つけたと思っても、また、そこから一段と深い悩みが始まる。

 ずっと以前に、モームの自伝的名作『人間の絆』の話をしたと思うが、主人公のフィリップは、人生に意味などないと気づいて救われるんだ。

その虚無こそが出発点だ

ミツハシ:賢者が王様に語った言葉ですね。

シマジ:そう。東方の王様は人生とは何かを知ろうと願い、ある賢者にその答えとなる書を注文する。だが、多忙な王は500巻に及ぶ書を読む時間がないため賢者にその要約を命じた。それが完成したのは20年後。賢者は人生とは何かを50冊に要約した。だが、既に高齢の王には、その50冊を読む時間もなさそうだった。さらに要約を命じられた賢者はたった1冊にまとめた本を20年後に持参した。だが、死の床にあった王はもうその1冊さえ読めない。そこで賢者は王に人生の意義をたった一行にして伝えた。その言葉はこうだ。

 「人は、生まれ、苦しみ、そして死ぬ。人生に意味などなく、人は生きることで何らかの目的を達成することはない。生まれようと生まれまいと大した意味はないし、生きようが死を迎えようが意味はない」

 この逸話を思い出したフィリップは、人生に意味や目的などないからこそ、自分の人生を歩めばよいと考えられるようになる。たとえようもない虚無に襲われるという相談者に伝えたいのは、その虚無こそが出発点だということだ。人生は虚しい。そんなの当り前だ。じゃあその虚しさをどうするかということだよ。

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「【258】「虚無さま、ようこそ」と仲良くしてあげなさい」の著者

島地 勝彦

島地 勝彦(しまじ・かつひこ)

コラムニスト

「週刊プレイボーイ」の編集長として同誌を100万部雑誌に。各誌編集長を歴任後、2008年11月集英社インターナショナル社長を退き、現在はコラムニスト。シガーとシングルモルトとゴルフをこよなく愛する。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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