再び実感「日本の中高生はやはり凄い」

エネルギーのプロたちのプロボノ奮戦記

 「10年後の日本のため、LNG(液化天然ガス)を最も安く調達せよ」。

 この任務を課せられた9つのチームが一斉に議論を始めた。時は桜の開花を待つ3月、場所は都内にあるオフィスビル。9チームのメンバーは中学2年から高校3年までの学生。1チームが4、5名、総勢43名の中高生がLNG調達のポートフォリオを組んでいく。

 「カタールから買えば確かに安いが地域の情勢が危ない。だからアメリカを保険で入れました」

 「トランプ大統領が国内の雇用を増やすため天然ガスやパイプラインを建設するはず」

 「ここはUQT付きで調達しておくしかない」

 激論のさなか、普段聞きなれない専門用語が飛び交う。UQTとは“Upward Quantity Tolerance”の略。「必要に応じて契約と同一価格で一定量を買い増せる」というオプションを指す。

 ほんの数十分前にUQTの説明を初めて受けた中高生たちは真剣な表情でLNG調達の計画を立てていく。

燃料調達の現場をゲームで体験

 中高生の手元にはカードが複数枚、散らばる。「燃料調達ゲーム」に使うカードだ。調達可能なLNGがそれぞれのカードに記載されている。今回の調達対象は以下の通り。

 カタール長期、豪州長期、インドネシア長期、マレーシア長期、タンザニア長期、モザンビーク長期、米国長期、カタール中期、豪州中期、マレーシア中期、ナイジェリア中期、米国中期、そしてスポット。

 例えば「カタール中期」のカードには「2016年実績5万円/トン、2026年予想5万3000円/トン、石油価格連動、調達量800万トン/年、オプション:UQT無し、DQT100万トン」などとLNGの調達条件が書いてある。

 どのカードをいつ切るか、すなわちどのLNGをいつ購入するか。中高生は10年後の日本経済の状況を予測し、停電を起こさないように様々な調達条件を検討、最適なポートフォリオを彼らなりに組み上げていく。

 LNG調達に熱中する彼らだが、しばらくすると10年後の状況が発表される。当初の予測から外れた場合、直ちに挽回を図るアクションをとる流れだ。本物の燃料調達の現場で毎日、議論され、行動されていることだ。

「プロの日々の姿を知ってほしい」

 9つのグループの席には「業務アドバイザー」として大人が1人ずつ付き、中高生の質問に応え、必要があれば助言する。大人たちはエネルギービジネスのプロフェッショナル。9人中3人は実際に燃料調達業務を日々手がける。全員が私服、ニックネームを書いたネームカードを付けている。

 9人は「世界で戦えるグローバル・エネルギー企業を創り上げる」というビジョンを掲げるJERA(ジェラ)に所属する若手社員たち。JERAは東京電力と中部電力が2015年4月に設立したジョイントベンチャーで両社の燃料事業と海外発電事業を継承している。JERAは日本のJ、エネルギーのE、新時代(Era)のRAを組み合わせた。

 燃料調達ゲームは休日に行われ、JERA社員は仕事ではなく、「プロボノ」活動として参加した。プロボノとはプロフェッショナルたちが無報酬で行う社会奉仕活動。弁護士が休日、お金がなくて相談ができない人たちに無報酬でサービスを提供したことに端を発したという。

 「エネルギー業界で働くプロの日々の姿を中高生に知ってほしい」。JERAのグローバル推進室長を務めていた緒方博行氏が発案し、同僚たちに声をかけたところ、若手社員が集まってきた。

 緒方氏はテラスの中鉢慎氏と長谷悠滋氏に相談した。テラスは次世代教育プログラムを学校や団体に提供すると共に、プログラムをオープンイベントに転用、プロボノ活動を支援している。テラスの呼びかけを受け、スーパーグローバルハイスクール認定校を含む16校から43名が集まった。男女比は半々、各校の先生も見学にやってきた。

16の中高校から男女43人が参加

 燃料調達ゲームに参加した16校は以下の通り。

  • 栄光学園中学校・高等学校
  • 開成中学校
  • 都立国際高校
  • 国際基督教大学高等学校
  • サレジオ学院中学校・高等学校
  • 渋谷教育学園渋谷中学高等学校
  • 鈴鹿享栄学園鈴鹿中等教育学校
  • 聖学院中学校・高等学校
  • 清泉インターナショナルスクール
  • 専修大学附属高校
  • 君津学園木更津総合高等学校
  • 中央大学杉並高等学校
  • 筑波大学附属坂戸高等学校
  • 法政大学女子高等学校
  • 山手学院中学校・高等学校
  • 横浜市立市ヶ尾中学校

 16校からやってきた43人は学校に関係なく、9つのチームに分かれた。9つのチームがそれぞれJERAになったつもりで調達に取り組む。9チームの名前と由来を列挙しておこう。

99%:「99%は個人の力、残り1%はチームで協力する」という意味。

富士フイルム前:誰かの最寄り駅の名称からとったらしい。

カルピス:「皆がカルピス好きだから」

しんでれら:「チームの1人がシンデレラ劇で演じたから」。ただしシンデレラ役だったわけではない。

ふらぺちぃーの:「皆がスタバで頼む共通の好きな飲み物」

とうふるーつ:「豆腐とフルーツを組み合わせた」。そうした理由は不明。

Juice:「全員がジュース好きだから」

SMSK:メンバーの頭文字。

ドナルド:「ミュージカルに出ている子がチームにいた。そのミュージカルにちなんで」

 命名の由来を聞けば、そこはまだ中高生だ。だが、議論は大人顔負けだった。

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著者プロフィール

谷島 宣之

谷島 宣之

日経BP総研

一貫してビジネスとテクノロジーの関わりについて執筆。1985年から日経コンピュータ記者。2009年1月から編集長。2015年から日経BP総研 上席研究員。

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いただいたコメントコメント11件

 「日本の中高生はやはり凄い」、ですか。実際、集まった者たちはそうでしょう。実はトップの連中を集めて「凄い」と言っているだけではありませんか。この「凄い連中」は全体の何%なんでしょうか。日本の中高生全体の世界全体の中でのレベルは下がる一方ではないですか。

 執筆者は教育関係者ではなさそうですが、この表現はいわゆる「ミスリード」もたらしませんか。実は「文科省のひどい学校教育運営を正当化するプロパガンダ」ではないか、とすら思います。(2018/04/14 09:24)

以前の記事に積水化学が作ったプラント計画
ゴミからエチルアルコールを作るという話があった為になんか若干霞んでしまった…
それ位インパクトのある記事だった…
余り日本マンセーの記事は心地よい記事とは言えない昨今、今後の高品質物作り日本が本当の意味で復活してくれる事を切に願うと同時に、今後の人間育成がこの日本という国できちんとできていると感じる良い記事だった(2018/04/14 01:42)

昔のビジネスゲームの様で面白い。子供にも面白いはず。生の社会状況の変動をゲームにしてメカニズムなどを学ぶのはどんどんやると良い。ゲームの環境設定、ルール設定(これが実際には複雑)次第で誰でも楽しめる。
日本では特に 現場の物づくりにある職人的へんくつ、政治に近い世界の秘密と長い目の権力闘争、技術革新開発は容易ではないが必要な事 等の要素を入れれば 実社会に近い。(2018/04/13 13:46)

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