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「京都ってインドみたいなところなんですね」

「美しい国だワクチン」を接種された日本人

2015年12月4日(金)

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  • フィレンツェのダヴィデ像(現状) ©Alex Kerr
  • フィレンツェのダヴィデ像(改善)
    イタリアの優良企業HITACCOが看板を寄付しているから分かりやすい。喫煙、落書き、集合写真、犬のフンも心配ありません。(写真とキャプションはいずれも『ニッポン景観論』より引用) ©Alex Kerr

 まず、この写真をご覧ください。

 アレックス・カーさんの著書『ニッポン景観論』の中にある「ニッポンの景観テクノロジーを世界に」から引用した、イタリア・フィレンツェのダヴィデ像とモンタージュ写真です。

 添えられたキャプションのブラックユーモアに、思わず笑ってしまいます。
 ……しかし、笑った後にしみじみ悲しく、情けなくなりませんか。

 日本にはすばらしい歴史的遺産や文化が各地にあります。それらは21世紀の有望産業といわれる「観光業」を支える資源であり、世界に比肩する大いなる資産(レガシー)です。それなのに、現実ではこのモンタージュのような光景がいたるところで繰り広げられ、その価値を損なっています。

 アレックスさんのユーモラスで辛辣な視点から浮き彫りになる、日本の景観が抱える問題点とは何か。それに対する有効な処方箋とはどういうものか。日本の都市とコミュニティについて、多くの取材を手がけてきた清野由美さんが聞き手になって、それらを探っていきます。

清野由美氏(以下、清野):昨日、京都の花見小路を歩いてきたのですが、原宿の竹下通りのようになっていてびっくり仰天してしまいました。

アレックス・カー氏(以下、カー):観光客だらけで、今、すごいですよね。

清野:平日の夕暮れ時で、一力茶屋から祇園女紅場に向かう町並みを味わいながら、しっぽりと行こうかな、と思っていたら、それどころじゃなかった。

カー:円安で外国からの観光客が一気に増えましたしね。特に中国からの観光客の勢いがすごい。

日本人は京都の古い町並みの価値が分かっていない?

Alex Kerr(アレックス・カー)氏
東洋文化研究者、NPO法人「篪庵(ちいおり)トラスト」理事長
1952年米メリーランド州生まれ。12歳から2年間、父親の赴任に伴って横浜に住む。74年、イェール大学日本学部卒業。在学中に慶應義塾大学国際センターで日本語を研修。その後、オックスフォード大学ベーリオル・カレッジで中国学を修める。77年から京都府亀岡市に居を構え、書や古美術、日本の伝統芸能の研究に励む。90年代に米テキサスを本拠にする不動産ディベロッパー「トラメル・クロー」社日本代表を務め、2000年代に京町家を舞台にした滞在型の宿泊施設を運営する。その後、景観と古民家を核にした地域再生コンサルタンティングを手がけ、徳島県の祖谷、長崎県小値賀町、奈良県十津川村などで、古民家を滞在型宿泊施設に改修するプロジェクトをプロデュースする。亀岡(京都府)、祖谷(徳島県)、バンコク(タイ)の3カ所に拠点を持ち、世界中を回りながら、景観保存活動や講演、古美術品の収集、文化イベントのプロデュースなど多岐にわたる活動を行う。主著書に『美しき日本の残像』(朝日文庫、新潮学芸賞)、『犬と鬼』(講談社)、『ニッポン景観論』(集英社新書、不動産協会賞)など。(写真:楠本 涼)

清野:その光景を見て、アレックスさんが『ニッポン景観論』をお書きになるはるか以前から、ずっとおっしゃっていたことを思い出しました。ひとつは「21世紀の主要産業は観光業です」ということ。

カー:そうそう。

清野:もうひとつは、その観光業に対する意識・認識が日本は残念なほどに遅れている、ということです。花見小路は、昔ながらの家並みをきちんと守って商売しているところがある一方、一過性の観光客をあてこんだ店もできていて、クオリティーが下がる危機に瀕していると思いました。

カー:観光客が増えることには、いい面も悪い面もありますね。悪い面は、目先の商売を優先する人たちが出てきて、昔ながらのいい町並みが汚れていくこと。観光客はその町に住んで、町並みを守る人たちじゃないから、すごく無責任に楽しんで、散らかしていきます。

清野:舞妓さんや芸妓さんが通ると、「キャーッ」ってイナゴのように群がって、スマホでバシャバシャ写真を撮っていました。舞妓さん、芸妓さんたちにしてみたら、普通に仕事に出かける途中なわけで、すごい迷惑です。1980年代に日本人観光客がパリに大挙して押しかけ、ルイ・ヴィトンでバッグを買い漁った、なんて光景もこれに近かったんだろうな、と思いました。

カー:一方で、観光客が増えるいい面というのはあって、それは祇園の花見小路のような昔の町並みに、人々が無関心でなくなることですね。観光客が古い町並みを目指してやって来ることを目の当たりにして、それの持つ価値が分かるようになります。

清野:「価値が分かる」の主語は誰ですか。日本人?

カー:そう。

清野:日本人だったら、その価値はすでに分かっているんじゃないですか。

カー:分かってないですよ。

清野:えっ?

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「「京都ってインドみたいなところなんですね」」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。現在、慶應義塾大学SDM(システムデザイン・マネジメント)研究科修士課程在学中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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