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「僕はザハ案でいいと思っていましたよ」

東京の眺めはアジアで一番つまらない

2015年12月18日(金)

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ヴェネツィア(現状)©Alex Kerr
ヴェネツィア(改善)
運河を道路に埋め立てれば便利で安全、工事で雇用の確保もできて一石二鳥。(写真とキャプションはいずれも『ニッポン景観論』より引用) ©Alex Kerr

 冒頭の写真は、アレックス・カーさんが著書『ニッポン景観論』(集英社新書)の中で使った、日本の「景観テクノロジー」とヴェネツィアの町をモンタージュしたものです。

 添えられたキャプションのブラックユーモアに、思わず笑ってしまいます。
 ……しかし、笑った後に一抹の疑問にとらわれないでしょうか。

 日本にはすばらしい歴史的遺産や文化が各地にあります。それらは21世紀の有望産業といわれる「観光業」を支える資源であり、世界に比肩する大いなる資産(レガシー)です。それなのに、現実ではこのモンタージュのような「景観工事」がいたるところで繰り広げられ、その価値を損なっています。

 アレックスさんのユーモラスで辛辣な視点から浮き彫りになる、日本の景観が抱える問題点とは何か。それに対する有効な処方箋とはどういうものか。日本の都市とコミュニティについて、多くの取材を手がけてきた清野由美さんが聞き手になって、それらを探っていきます。

清野由美(以下、清野):日本人の景観に対する感度、態度について、いろいろとお話していますが、最近では「新国立競技場」の曲折に、その問題が反映されていました。新国立競技場は当初、恐れていた通りに、嫌な感じにこじれてしまい……。

アレックス・カー(以下、カー):12月14日に新しい2案が発表されましたね。

清野:仕切り直しが始まりましたが、それまでの経緯がひどかった。「新国立競技場 国際デザイン・コンクール」で、「新国立競技場基本構想国際デザイン競技審査委員会(審査委員長は安藤忠雄氏)」が選んだザハ・ハディド案に対する批判があまりに大きく、また予算も膨れ上がったので、まずデザインの縮小というものがあった。本来、最初に提示された凶暴なまでに巨大でシャープなデザインこそが、ザハ・ハディド氏の持ち味だったわけですが、そこが薄められて、ずんぐりしたカメのようなものに変更され、そこからさらにいろいろあって、結局、白紙撤回。国際的に見ても恥ずかしく、大変な騒ぎでした。それなのに、発注主の誰に、どのような責任があるかは明確にされず、誰が責任を取るわけでもなく――と、とても日本的な成り行きで、次の段階に進んでいます。

カー:東大寺の歴史を読んでいたら、これとそっくり同じ話が出てきて、笑ったんですけどね。

Alex Kerr(アレックス・カー)氏
東洋文化研究者、NPO法人「篪庵(ちいおり)トラスト」理事長
1952年米メリーランド州生まれ。12歳から2年間、父親の赴任に伴って横浜に住む。74年、イェール大学日本学部卒業。在学中に慶應義塾大学国際センターで日本語を研修。その後、オックスフォード大学ベーリオル・カレッジで中国学を修める。77年から京都府亀岡市に居を構え、書や古美術、日本の伝統芸能の研究に励む。90年代に米テキサスを本拠にする不動産ディベロッパー「トラメル・クロー」社日本代表を務め、2000年代に京町家を舞台にした滞在型の宿泊施設を運営する。その後、景観と古民家を核にした地域再生コンサルタンティングを手がけ、徳島県の祖谷、長崎県小値賀町、奈良県十津川村などで、古民家を滞在型宿泊施設に改修するプロジェクトをプロデュースする。亀岡(京都府)、祖谷(徳島県)、バンコク(タイ)の3カ所に拠点を持ち、世界中を回りながら、景観保存活動や講演、古美術品の収集、文化イベントのプロデュースなど多岐にわたる活動を行う。主著書に『美しき日本の残像』(朝日文庫、新潮学芸賞)、『犬と鬼』(講談社)、『ニッポン景観論』(集英社新書、不動産協会賞)など。(写真:楠本 涼)

清野:東大寺? それが新国立競技場問題と、どうつながるんですか。

東大寺再建時と同じ構図

カー:東大寺は奈良時代(8世紀)の創建ですが、平安時代に兵火にあって焼けて、僧の重源(ちょうげん)が復興させたんですね。でも、戦国時代(16世紀)にまた焼けちゃって、百年以上、ひどい状態で放置されたままだったんです。それで元禄時代になって、公慶(こうけい)というお坊さんが、また復興するんですね。公慶さんは子供のころ、奈良に連れていかれたことがあって、その時に、雨が降る荒れた敷地に、大仏さんの首が落ちていた光景を見ていたんです。

清野:何だか、大変、悲惨な状況ですね。

カー:江戸時代の初期には、大仏さまはひどい状態だったんです。6歳だった公慶は、その大仏さんの悲しい姿を見て泣いて、「僕がお坊さんになって復興します」と胸に誓ったわけです。約束通り彼は僧になって、大仏殿を作る前に、大仏さんそのものを直しましょう、ということで、京都の町中を回って寄付を募りました。

清野:クラウドファンディングみたいなことをしたんですね(笑)。

カー:当時、彼が回った京都の町の地図が、今も残っているんですよ。

清野:へえ。

カー:麩屋町をここまで下りて、富小路をここから上がってと、碁盤の目になった京都の町を、彼は全部歩いているんですね。お坊さんがたった一人、そうやって町を歩いてお金を集めたということで、かなり注目されたようです。

清野:ソーシャルアントレプレナーの先駆者だった(笑)。

カー:公慶は幕府とはまったく関係のない立場で、大仏再建を進めました。でも、世間が彼に注目すると、幕府は「けしからん」と考えたわけですよ。

清野:なるほど。

カー:それで幕府は、次の東大寺本殿の再建は俺たちがやるぞ、ということにした。町中をちょこちょこ歩いて資金なんか集めなくていい、自分たちは大きな資金を初めから出せるんだから、と公慶のやったことを上から否定したんですね。まあ、そこからトラブルの連続ですね。

清野:やはり。

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「「僕はザハ案でいいと思っていましたよ」」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官