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ゲスの極みについて考える

2016年1月15日(金)

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 猟奇殺人や著名人の自殺や食品偽装など、ひとたび印象鮮烈な事件がニュースになると、分野を問わず、似たような事件が続発する。

 暗示にかかりやすい情緒不安定な人々が、大量のニュース報道に反応して、かねてから心にあたためていた妄想を実行に移してしまうものなのか、あるいは、単にメディアが似たような事案をひときわ大きく報道するケースが増えるということなのか、事情は様々なのだろう。

 今年の年明けは、芸能ニュースの世界で、人目を引く話題が立て続けに記事化されている。

 中でも大きな注目を集めているのは、人気中年男性アイドルグループのメンバーの独立ならびに解散の可能性を示唆するニュースと、もうひとつは、ロックバンドのボーカルとハーフ(←この言い方は公の場では使いにくくなっているのだそうですね)のタレントさんの間に勃発した不倫スキャンダルだ。

 SMAPの解散話について、自分なりの憶測を述べれば、それはそれで書くことがないわけではない。が、この件に関して私的な憶測を述べることは、リスク(というか、面倒)が大きいばかりで、しかも、あまり楽しくない。書き始める気持ちになれない。

 なので、今回は、先日来燃え上がっている不倫報道について考えてみることにする。

 不倫そのものにはあまり興味がない。不倫の当事者である二人にも関心を抱いていない。
 私が注目しているのは、この不倫報道の処理のされ方だ。

 というのも、第一報が報じられた時点から既に、この話題については、ネット掲示板の中での扱いと、リアルな世間の人々の受け止め方に明らかな差異があって、特にネットにおいて、行為としての「不倫」そのものとは別に、当事者の不倫以前の言動が裁かれているように思えるからだ。

 昔から、ネット世論の中では、いい人ぶる人間がことのほか嫌われることになっている。

 ベッキーはその意味で、潜在的な敵をあらかじめたっぷりかかえていたのだと思う。

 不倫は、そのいい人ぶっていた(と、ネット雀が思っていた)彼女を、血祭りにあげるための、絶好の「ネタ」だったわけで、その意味では、この話題は、構造としては、昨年末に起きた「ぱよぱよちーん」の事件とそんなに変わりがない。

 いずれも、「ドヤ顔で得意になっている人間が転落した」「口できれいなことを言っている人間が、正反対の行動をしていたことが発覚した」「典型的なザマーミロ事案」という点で、ネットに集う群衆の嗜虐趣味を著しく刺激する出来事だったということだ。

 誰であれ、「正論」を吐いたり「理想」を語ったり「こころのやさしさ」を表に出したり「人柄の良さ」をアピールする人間は、21世紀のネット社会では、仮想敵としてひそかにロックオンされる。

 というよりも、ネット空間内に漂う匿名の共同無意識は「得意の絶頂にいる人間を引きずり下ろす」時に、最も情熱的な形で共有されるのであって、名前を持たない群衆と化した時のわれわれは、穴から出たウサギを追う野犬の群れと選ぶところのない存在なのである。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「ゲスの極みについて考える」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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