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カナリヤたちの謝罪中継

2016年1月22日(金)

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 この月曜日の夜、フジテレビが通常の編成を急遽変更して全国放送したSMAPの面々による謝罪の生中継は、平均で31.2%、瞬間最高で37.2%の視聴率を記録したのだそうだ(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 昨今の地上波放送の数字としては、異例の高視聴率だ。それだけ、視聴者の関心が高かったということなのだろうが、私の見るに、この数字のもうひとつの意味は、テレビの役割が、既に「そういうもの」を映す方向に変化しているということだと思う。

 「そういうもの」とは、具体的には「生謝罪」のことだ。

 21世紀のテレビは、「歌」や「芸」や「ニュース」や「ドラマ」のような「作り手が手間をかけて作りこんだ表現や作品」よりも、テレビタレントや犯罪被害者による「素」の「会見」や「謝罪」のような、「生身の人間の赤裸々な個人情報」を映し出すことに重心を移しつつある。良いことなのか悪いことなのかはわからない。ただ、われわれは、これから先「そういうもの」ばかりを見せられることになるだろう。

 画面を眺めながら、私は、SMAPの5人が「誰に対して」「何を」謝っているのか、まるで理解できずにいた。

 メンバーは、言葉の上では、「ファンの皆様」に「ご心配をかけたこと」を詫びていた。

 このたびの解散騒動は、事務所の内部で起こったトラブルを、いくつかのメディアがニュアンスの違う報じ方をしたことで拡大したものだ。とすれば、ファンに向けて謝罪する筋合いは無い。

 伝えられているように、事務所とメンバーの間に何らかの行き違いがあって、そのためにトラブルが生じていたのだとしても、そのトラブルは、あくまでも「内輪」の出来事に過ぎない。そのトラブルを解決するべく謝罪の場が設けられることがあり得るのだとしても、その「謝罪」もまた「内輪」の謝罪であってしかるべきものだ。というよりも、トラブルの当事者が、知名度の高い芸能人であることを考えれば、謝罪は、なおのこと「内輪」で処理されなければならなかったはずだ。

 その謝罪が、「事前に繰り返し告知された全国ネットのテレビ生中継の画面の中」という、最も目立つステージの上で実行されなければならなかったのは、その謝罪パフォーマンスが、謝罪とは別の意味を含んだものだったからだ。そう考えないとスジが通らない。
 では、その「謝罪以外の意味」とは何だろうか。

 私は、まわりくどいものの言い方をしている。
 いきなり結論を提示すればそれで済むところを、一段階ずつ、くどくどと念を押しながら一行ずつ書き進める方法で、事態の解説を試みている。

 なぜ、こんな持って回ったセルフ・コール・アンド・レスポンスの大演説をしているのかというと、あの、なんとも陰険な形でSMAPのメンバーたちに強要された「見せしめ」の実体を明らかにするためには、書き手の側も、それなりに陰険な書き方を採用しなければならないと決意しているからだ。

 彼らは、「ファンへの謝罪」という形式を踏んで展開される「業界向けの見せしめ制裁パフォーマンス」を、一から十まで、謝罪強要側のシナリオに沿って演じさせられている。しかも、その「謝罪パフォーマンス」は、それを放送したテレビ局はもちろん、謝罪映像を引用することになる他局やスポーツ新聞および芸能欄を持つ雜誌を含むすべてのメディアが相乗りした形の、業界総掛かりの処刑イベントとして、衆人環視の中で敢行された。

 「ポリティカル・コレクトネス(=政治的正しさ)」という言葉が発明される以前の、昭和の時代のテレビと比べて、われわれが現在視聴している21世紀のテレビ画面は、基本的には、大変に上品になっている。

 露骨な差別用語が使われることはまず無いし、血なまぐさい映像表現や、残酷な描写も減少傾向にある。

 とはいえ、その一方で、ここ数年、ネット世論と結託するようになったテレビは、底意地の悪いものの見方を反映したカメラワークで被写体をとらえる頻度を増してきてもいる。視聴者の側も、「私刑」や「制裁」の機能を含んだコンテンツを好む傾向を深めている。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「カナリヤたちの謝罪中継」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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