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「クラッシャー上司」が米国を率いる

2017年2月3日(金)

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 トランプ新大統領が就任して、2週間弱が経過した。

 この10日間ほどのうちに、これまでの米国の常識からは考えられなかった大統領令が矢継ぎ早に発令され、そのうちのいくつかは、米国のみならず世界中に混乱を引き起こしている。

 その大統領令のひとつに異議を唱えた政権首脳の一人が、いきなり更迭された。

 中東・アフリカ7カ国からの渡航を制限するトランプ氏の大統領令について、従う必要はないとの考えを司法省に伝えていたサリー・イェーツ司法長官代理が解任されたのだ。

 報道によれば、イェーツ氏は、オバマ前政権下で司法副長官を務め、トランプ政権になっても政権側の意向で長官代行を務めていた。彼女は、1月30日に今回の大統領令が合法であるとの確信が持てないとし、司法省は擁護しないとの見解を明らかにした。で、自身の見解を明らかにしたその1時間後に解任された。

 なんと電撃的な人事であろうか。
 まるでテレビ用演劇プロレスの人事往来シナリオそのものではないか。

 ホワイトハウスは、解任にあたって発表したステートメントの中で「米国市民を守るための法令執行を拒否し、司法省を裏切った(英語では"betrayed")」と非難し、同氏の行動は政治的なものだと説明している。さらに「イェーツ氏は、国境警備に弱腰で不法移民問題にも非常に疎かったオバマ前大統領に指名された」旨も付記している(こちら)。

 政府の最高機関であるホワイトハウスが、その公式な声明文の中で、職を離れる人間に対して、このような罵倒に近い表現で言及した例が過去にあったものなのかどうか、私は詳しい事情を知る者ではないのだが、いずれにせよ、こんな言い方で解任を言い渡すケースが極めて異例であることは確かだと思う。

 解任の意図なり意味なりは、職を解いたという事実を通して、既に、これ以上ない形で端的に、本人にも世間にも広く周知されている。

 とすれば、ホワイトハウスが、その公式ステートメントを通して、既に職を辞して一般人となった人間の背中に向けて、追い討ちをかけるようにして非難の言葉を投げかけなければならなかったのはいったいなぜなのだろうか。

 答えは、トランプ大統領その人の心の中にしか求めようがない。
 要するに、この声明文の中にある非難の文言は、トランプ大統領が一連の人事を

 「ムカついたから」

 という14歳の子供みたいな感情に基づいて執行したことを示唆するとともに、大統領自身が、そのこと(自分が感情的な判断を下す人間であること)を隠そうともしていないことを意味している。

 大統領が怒りの感情にかられて人事の判断をしたのだとすれば、それはそれでかなり恐ろしいことだ。
 が、より恐ろしいのは、彼が怒りの感情を隠そうとしていないことだ。

 私自身、犯罪を犯したわけでもない個人に向かって「betrayed」という言葉を使って非難する政権のやりざまに、不吉なものを感じないわけにはいかなかった。

 というのも、権力者というのは、怒りの感情をほのめかすだけで、その権力の及ぶ範囲のすべての人間に恐怖を感じさせることができる存在であり、その意味で、自身の悪感情を隠さない人間が米大統領の座に就いたことは、ホワイトハウスがまるごと、もっと言えば、世界中が、この先、恐怖の中で暮らさなければならなくなったことを意味しているからだ。

 おおげさなことを言っているように聞こえるかもしれない。
 が、怒りというのは、それほど破壊的な作用をもたらすものなのだ。

 つい最近『クラッシャー上司 --平気で部下を追い詰める人たち--』(松崎一葉著 PHP新書)という本を読んだのだが、その中に、部下を鬱病や退職に追い込む(つまり部下を「潰す」)上司の典型例がいくつか出てくる。

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「「クラッシャー上司」が米国を率いる」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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