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「清原」に見える我らの痛ましさ

2016年2月5日(金)

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 元野球選手の清原和博氏が……と、一行目の冒頭のフレーズをタイプした時点で、その「元野球選手の清原和博氏」という主語のなんとも言えない据わりの悪さに気持ちをくじかれている。

 はじめに、「呼称」の問題を片付けておきたい。
 とはいうものの、片付くものなのかどうか、実のところ、確信が持てない。

 誰もが知っている有名な誰かが厄介な事件に巻き込まれると、いつも同じ問題が表面化する。
 私たちは、事件の渦中にある人物をどういう名前で呼ぶべきなのか、毎回、頭を悩ませる。

 基本的な前提として、わが国のマスメディアでは、いわゆる「公人」の名前を、敬称を略した「呼び捨て」で表記するならわしになっている。

 まず、この点から考えてみよう。
 清原元選手が現役の野球選手であった時代は、どの新聞も

「8回裏、清原の打ったセンター前タイムリーが…」

 と、彼の名前を敬称略で表記していた。
 テレビのアナウンサーも、

「清原の白スーツが…」

 などと、むき出しの苗字だけで呼びかけるのが通例だった。

 呼び捨て呼称には、おそらく、二つの意味がある。

 ひとつは、その名前が、「注釈や肩書抜きで通用する有名人」である旨の含意だ。明石家さんま、北野武、木村拓哉、羽生結弦、麻生太郎といったビッグネームは、なんの説明も伴わない本人の名前だけで、あらかじめ万人に認知されている。大臣やスケート選手や芸人としての肩書や注釈も要らない。名前だけですべてを説明することができる。

 もうひとつの意味は、呼び捨てにされる名前が「親しみ」とともに発音されているということだ。

 友だちや家族に準ずる親しい存在であるからこそ、他人行儀な敬称や敬語はむしろ無用になる。彼らの名前の末尾には、「さん」や「氏」とは別の、カジュアルな接尾語が付く。松ちゃん、吾郎ちゃん、ともちん、サシコ、まゆゆ…と、名前の前後に付く装飾は、愛称、ニックネームから自他の未分化な幼児的な呼びかけに至るまでのあらゆるバリエーションを含むことができる。

 その、親愛の対象であったセレブリティーの名前に「氏」なり「さん」なりの敬称が付く事態は、その「公人」であった彼または彼女が、「公的」な存在でなくなったタイミングで起こる。

 スポーツ選手が現役を引退したり、レコード歌手が結婚して主婦になったりすると、その日から、彼らは名前の末尾に「氏」なり「さん」のついた、「パンピー」の扱いになる。

 引退した女優が久しぶりにテレビ画面に顔を出す時、彼女は、昔通りの名前では呼ばれない。必ず「さん」付けで呼ばれる。そうでないと様々な方面に対して失礼であるのみならず、業界的にケジメがつかないからだ。

 テレビ画面の中は、文化人枠の出演者にだけ敬称が付く。
 たとえば津田大介さんの出演場面では、敬称ないしは肩書付きの字幕テロップが表示される。
 一方、隣に座っているカンニング竹山の名前はそのまま呼び捨てで処理されている。

 が、出演料は、文化人の方が安い。
 逆に、呼び捨ての名前でキャスティングされている出演者には、その「芸」なり「存在感」に見合った高額なギャランティーが支出される。

 引退したマラソン選手が解説者として放送席に座る場合には、「さん」が付く。理由はたぶん、ギャラが安いからだ。邪推かもしれないが。

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「「清原」に見える我らの痛ましさ」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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