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「で、どっちがワルモノなんだい?」

2018年2月9日(金)

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 他人のトラブルであれ、組織の不祥事であれ、見知らぬ男女の婚外交渉であれ、それらの出来事に一定以上の公共性が宿っているのであれば、記者が追いかけるのも良いだろうし、週刊誌が憶測記事を書くことにも、お昼の番組が半端な野次馬を集めて議論することにもそれなりの報道価値が生じるものなのだろう。

 しかしながら、昨年来続いている角界内部の暴露報道合戦は、それをネタに稼いでいる人間たちが潤っている以外、誰にもメリットをもたらしていない。相撲ファンははじめから辟易しているし、非相撲ファンは意味もわからずに腹を立ててばかりいる。

 現代にあっては、腹を立てることそのものが有力な娯楽のひとつなのだと、グッディやバイキングのプロデューサーがそう言い張るのなら、一応、この場は、耳を傾けておいてさしあげてもかまわない。でも、私は彼らが考えているみたいな形式で世界に対峙している人間ではないし、本当のところ、視聴者の多くも、単に退屈しのぎをしているだけなのだと思っている。

 視聴者の怒りを煽ることは、数字に結びつけやすい番組演出作法なのだろうし、だとすれば、不満を抱いている人間が腹を立てるように持っていくのが番組作りのコツだ、ってなことにもなるのだろう。が、怒りそれ自体が状況を改善することはあり得ない。

 とすれば、人々の怒りの感情にアピールすることで、何かを成し遂げたつもりになっている人間は、表現者であるよりは単に扇動者なのであって、メディアの中にこの種の人々が増えることは、すなわち業界の頽廃だと思う。

 昨年来の相撲関連報道に、相撲の世界の当事者は、端的な話、迷惑しているはずだ。

 角界の運営に問題があることは様々な立場の人々が指摘している通りだし、彼らが反省せねばならないこともおっしゃる通りではある。が、だからといって、基本的な背景知識すらろくすっぽ持っていないド素人による思いつきの説教を、真面目な顔で聴かなければならない義理を相撲界の人間が生まれつき背負っていると考えるのは早計だ。当然じゃないか。いったいどこまで思い上がれば自分が知っているわけでもなければ勉強したわけでもない世界に対して、したり顔で改革を強要することができるのだ? 君たちは創造主なのか?

 私は、なんだかんだで50年近く相撲を見てきた人間だ。

 そういう私のような古くからの相撲ファンは、大相撲に問題があることを、もちろん知らなかったわけではない。それらの問題が永遠に改善されないまま存続してもかまわないと思っているわけでもない。ただ、われわれは、問題の解決が簡単ではないことを理解しているし、それ以上に、自分たちのような外部の人間が生半可な覚悟で問題に介入することで、相撲のあり方を歪めてしまうことを恐れている。

 相撲は、相互に矛盾する複雑な基盤の上に成立している至極曖昧な現象と言っても良いものだ。

 それゆえ、改革を進めるにしても、透明化に着手するにしても、一刀両断の荒仕事で簡単に話が決着するような刺し身のネタではない。

 出来の悪い巨大プログラムのデバッグなり仕様変更なりに従事した人間ならある程度わかるはずだが、入り組んだ構造体のバランスを改善するためには、そのシステムが形成されるに至った長い時間に相応する、大変な時間を投入せねばならないものなのだ。何なら、手元のスマホがトラブルに陥った話に例えてもいい。特定のアプリが原因で問題が起こっている、とは限らないし、そのアプリを取り除けばすべてが解決する、というわけでもない。むしろ、考えなしにアプリを削除したら、当面のバランスをさらに崩すことになるかもしれない。

 ウィルスのせいと断定することもできない。
 なにしろ設計が古いうえに、場当たり的な修繕と増築が基本構造を複雑怪奇にしてしまっている。

 メモリは不足しているし、CPUの基本性能も処理に追随できていない。当然、OSのバージョンは古すぎるしブラウザも信用できない。

 こういうシステムをリニューアルするつもりなら、まずはじめに、それなりの時間と手間と資金を覚悟しなければいけない。

 ハードディスクをフォーマットして空き容量を作ったらどうだとか、常駐ソフトを全部捨てればメモリの負担が軽くなるんではないかとか、考えの足りない素人はおよそ無責任な改善策をドヤ顔で畳み掛けてきがちなものだが、そんなアドバイスを鵜呑みにしていたら、それこそシステムは永久にフリーズしてしまう。

 むしろ、一番簡単なのは古いシステムをまるごと廃棄して、新しいマシンを買うことだ。
 実際、手間と費用の話をすれば、古いシステムを修理して使うよりは、ニューマシンを買った方がずっと安くつく。そういう道が無いわけではない。

 が、仮にSUMOという新しい土俵サークル格闘技を誕生させたのであれば、その瞬間に、相撲の伝統は完全に失われる。

コメント108件コメント/レビュー

(2018/02/14 16:11)のような良質なコメントをつける読者に恵まれているのは,羨ましい限りです.

他力本願を,うっかりつかうと噛みつかれることがあるのは存じていましたが,これからは焼畑農法にも注意することにします.(2018/03/06 13:27)

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「「で、どっちがワルモノなんだい?」」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

(2018/02/14 16:11)のような良質なコメントをつける読者に恵まれているのは,羨ましい限りです.

他力本願を,うっかりつかうと噛みつかれることがあるのは存じていましたが,これからは焼畑農法にも注意することにします.(2018/03/06 13:27)

安倍総理批判がないと、好意的なアンケート結果がでるような気がするけど、
それを理由にネタを選ぶような著者であるはずがないのは明白。
それでも「効いている、効いてる」と、喜んでいるオメデタイ人々がいたりもするのだろうか。(2018/02/14 17:22)

何の根拠もなく『「どんなネタでも政権批判につなげるのは辟易」と言って、小田嶋センセーを批判している』層と『今回の「だったらモリカケの時にも言えよ」とか「政治に置き換えても同じじゃないか」とか、強引に政治ネタにもっていく』層が同一だと思っている人、頭大丈夫?(2018/02/14 17:12)

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