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育休は権利か義理チョコか?

2016年2月12日(金)

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 今年はバレンタインデーが日曜日にぶつかるため、関連業界は、オフィスで配られるいわゆる「義理チョコ」需要が減少することを懸念しているのだそうだが、一方、育児休暇を申請する方針を明らかにしていた国会議員に不倫疑惑が発覚して、育休をめぐる議論そのものが雲散霧消しつつある。

 この二つの話題は、一見、関係の無い、別の出来事だ。が、私の見るに、両者の間には通底する何かがある。今回は、バレンタインデーと育児休暇を結びつけるわれわれの対人感覚のめんどうくささについて書こうと思っている。こじつけだと思う人もあるだろうが、デキの良いこじつけは世界を動かすことができる。というよりも、バレンタインデーをめぐる商習慣自体、こじつけからスタートしている。

 バレンタインデーに女性から男性にチョコレートを贈る習慣が定着したのは、そんなに古い話ではない。私は、バレンタインという言葉が、まだほとんど誰にも知られていなかった時代のことを記憶している。

「そんなバカな」

 と思うかもしれないが、私たちはそんなバカだった。
 私は、バレンタインデーの日付についてはもちろん、同じ名前を持った人物がいたことや、その彼の来歴に関しても、まるで知識を持っていなかった。

 いまとなってはバレンタイン伝説の捏造過程について何も知らない若い人たちが多数派になっている。しかも、その彼らの中には、バレンタインデーを、はるか昔から続く伝統行事と考える粗忽者が、少なからぬ割合で含まれている。

 戦争体験やバブル経済でも同じことだが、現実に起こっていた出来事について、それを経験した世代の人間が繰り返し語ることを怠っていると、いつしか、歴史は、不都合な事実を「なかったこと」として省略するようになる。その意味で、私は、年長の人間が古い記憶を語ることには一定の意義があると考えている。なので、若い人たちは、めんどうくさがらずに聞いてください。

 バレンタインデーは、当初「年に一度だけ女の子が愛の告白をしてもかまわない日」として、中高生の間に広まったゲームみたいなものだった。

 私が中学校に入学したのは1969年だが、その時には既に、バレンタインデーに関する故事来歴は、少なくとも都内の男女共学の公立中学に通う生徒の間では、常識に属する知識となっており、それゆえ、2月14日は、13歳の子供たちにとって、一年のうちで最もスリリングな一日だった。

 小学校に通っていた時には、そんな話は聞いたこともなかった。
 ということは、1968年までは、バレンタインデーにまつわる愛の告白の伝統は存在していなかったことになる。

 あるいは、小学生だった私がバレンタインの存在を知らなかったのは、単に子供だったからで、バレンタインについて応分の知識を得たのが中学校に上がってからになった理由は、要するに私が色気づいたことの結果に過ぎなかったのかもしれない。

 ともあれ、バレンタインデーをめぐるエピソードは、1970年代にはいるや、あらゆる少年少女向けの漫画雑誌の正月明けからこっちの誌面を独占する、致死的に重要なテーマになっていった。

 ということは、バレンタインデーをめぐるあれこれの口承やトピックの最初の発生が、正確にどの時点に始まるのかはともかくとして、それが爆発的に普及したのが60年代の末期から70年代の初頭に至る数年の間であったことは、まず間違いのないところだと思う。
 さてしかし、その「女の子からの愛の告白」というややリキみ返ったモチーフを含んだ可憐な物語は、実のところ、そんなに長持ちしなかった。

 中高生というのは、今も昔も、何かに対して真剣になればなるほど、その自分の気持ちを自分で茶化しにかかってしまう傾向を持った人々であり、彼らの失敗はいつも自縄自縛の空回りから出発することになっている。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「育休は権利か義理チョコか?」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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