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仰げば尊し、わが社の恩

2017年3月24日(金)

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 先週の今頃、いわゆる残業時間の上限を100時間未満とすることで労使の話し合いが一致したというニュースが流れてきた(こちら)。

 様々なソースをあれこれ読み比べて確認してみたのだが、このニュースを伝える文章は、どれもこれも、どこからどう見ても、あらゆる点でどうかしていて、私の感覚では、マトモに読み進めることができない。支離滅裂過ぎて意味が読み取れないというのか、すべての前提があまりにも異常過ぎて、うまくアタマが回らないのだ。

 だって、労使が合意した残業時間の限界点が「過労死ライン」を超えた先に設定されているって、これ、死んだ人間だけが受け取れる死亡保険金を担保に借金をするみたいな、ジョークにしてもあんまり悪趣味でしょうが。

 最初に前提部分の話をしておくと、私は、今回の労使間の議論の源流にある「働き方改革」という言葉が、すでにして異様だと思っている。

 「働き方改革」は、第3次安倍内閣のもと、2016年9月26日に内閣総理大臣決裁によって設置された内閣総理大臣(第97代)・安倍晋三の私的諮問機関であり「働き方改革実現会議」が中心になって推し進めることになっている改革なのだが、個人的には、この会議の名称にも気持ちの悪さを感じている。

 ついでに言えば、この「働き方改革実現会議」の背景にある「一億総活躍社会」という言葉も強烈な違和感を覚えているのだが、そこまで網を広げると話が拡散してしまう気がするし、前にも書いたので(こちら)別の機会に。

 話を元に戻す。

 「働き方改革」と言ってしまうと、成句の構造上「改革」の成否は労働者の側に帰せられることになる。
 それ以前に、「労働者の働き方が間違っているからそれを改善する」というスジのお話に聞こえる。

 つまり、「働き方改革」という言い方で問題に取り組もうとする限りにおいて、あくまでも言葉の響きの上での話ではあるが、残業が多過ぎることも、労働生産性が低い傾向も、過労死が相次いでいる現状も、すべては労働者の側の「働き方」が悪いからだという認識から出発せねばならないことになるわけだ。

 考え過ぎだと思うだろうか?
 私はそうは思わない。
 タイトルを甘く見てはいけない。
 特に、「改革」のようなものを立ち上げる時は、自分たちが、何のために何のどの部分を改革するのかをはっきり指し示した上で動き出さないと、成果を上げることは期待できない。

 「働き方改革」というフレーズは、その意味で的を外している。

 この言い方だと、労働者の働く意識や、働く方法や、働く姿勢が間違っていることがすべての元凶で、それを改めるためには、個々の労働者が自分たちの働き方と仕事に対する取り組み方と、仕事への意識の持ち方を見つめ直して、より効率的に、生産性高く、意識高く働くべく自らを改革して行かなければならないってな話に落着してしまう。

 そうでなくても、「働き方改革」は、雇用主や労働基準監督局や経営側が取り組むべき課題であるよりも、より強く労働者の側が意識改革として取り組むべき努力目標であるかような響きを放射している。

 よりくだけた言い方をするなら、「働き方改革」という言い回しは、うかうかすると、

「おまえらがダラダラ働いてるから残業が減らないんじゃないのか?」
「いつまでも職場の人間とダベってないでキビキビ働けってこった」
「っていうか、残業代目当てに用も無いのに会社に残ってるんじゃねえよ」

 ぐらいなことを示唆しているようにさえ聞こえるわけで、であるとすれば、こんなたわけたキャッチフレーズを掲げている限り日本の労働問題は改善の端緒にたどりつくことさえできないに決まっているのである。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「仰げば尊し、わが社の恩」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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